森のひとコマ|ニャッタがいなくなった夜
モーリー
ミッドナイト不動産鑑定
夜の森。木々のあいだから、ほそく月がのぞいている。
モーリーが、どんぐりランタンの下で、大きな瓶を抱えて歩いてくる。
古くから使っている“森のしごと用”の瓶──今年も出番がきたのだ。
かすかにきしむふたを開けると、モーリーはゆっくりとうなずいた。
まずは、葉にくるまれていた梅を、ひとつひとつていねいに水で洗う。
小枝の先でヘタをくるりと取るモーリー。
そっと鼻を近づけると、少し青くてすっぱい香りがする。
「この香りがするとね、“季節のバトン”が回ってきた気がするんだ。」
瓶のなかに、氷砂糖をぱらり。梅をころん。
静かな音が、順番に落ちていく。
そのあとから、ホワイトリカーが静かに流れこむと、
瓶のなかで季節がすこしずつ動きはじめた。
「“待つ”という仕事も、森のしごとなんだ。」
モーリーはそっとふたを閉め、静かに手を離す。
モーリーは小さく笑って、瓶にラベルを書く。
「2025年6月8日──晴れ。モーリー、今年も漬ける。」