森のひとコマ

森のひとコマ|あめ湯にとかす魔法

森の夜、湯気の立つ湯のみを囲むモーリーとレコルの挿絵
モーリー

ほんのり湯気のたつ湯のみを、羽でそっと包む。

「ふう……羽の奥まであったまるね」

くちばしをほころばせながら、モーリーがぽつり。

すると、木の上からちいさな声。

「なんだか、いいにおい」

リスのレコルが、木の幹をシュルリと下りてくる。

「これ、なあに?」とレコル。

「森のごほうび、“あめ湯”だよ。

からだの芯まであったまる、ちいさな魔法さ。

森の奥の大木にハチの巣があって、そこのはちみつをつかってるんだ」

モーリーはそう言って、瓶にはいったはちみつを羽でもちあげた。

「甘さは季節で変わるよ。春は花の香りが強くて、秋はちょっとこっくりする。」

レコルがそっと口をつけると──

「……わっ、やさしいあまさ、ぽかぽかして、ねむくなる〜」

「ね、魔法でしょ」

モーリーがくすりと笑う。

森に静かな風が吹き抜けて、

葉の裏で眠っていたしずくが、ぽとりと落ちた。

その音までも、あめ湯のぬくもりにとけて、

まあるく、やさしく、夜を包んでいくようだった──。

湯気の立つカップを羽で包むモーリーと、驚いたように見つめるレコルの挿絵
モーリーのカップから、甘い湯気がふんわり。
記事URLをコピーしました