実務の森|どうしてワンルームマンション投資は「儲からない」と言われるの?──利回りの数字だけでは見えないもの
利回り4%って書いてあるのに、どうして「儲からない」って言われるの?
不動産投資の広告を見ていると、
「都心ワンルーム、利回り4%」
「家賃収入で、将来の資産形成を」
といった言葉を目にすることがあります。
その一方で、ネットで検索すると、「ワンルームマンション投資は儲からない」「やめておけ」という言葉も、たくさん出てきます。
広告は「儲かりそう」と言い、ネットは「儲からない」と言う。
どちらが本当なのでしょうか?
答えは、少し立ち止まって考える必要があります。
広告に表示される利回りと、実際に手元に残るお金のあいだには、その利回りの計算には織り込まれていない、さまざまな費用やリスクがあります。
「儲からない」と言われる理由の多くは、ここに隠れています。
モーリー、ワンルームマンション投資って、広告だと良さそうに見えるのに、“儲からない”って言う人も多いんだね。どっちが本当なの?
うん。広告の利回りと、実際の収支はだいぶ違うんだ。今日はその違いを、ゆっくり見ていこう。
1.広告の「利回り」は、どう計算されているの? 〜表面利回りのしくみ〜
🦉モーリー:「まず、広告に出てくる利回りの正体から見ていこう。多くの場合、それは“表面利回り”と呼ばれる数字なんだ。」
表面利回りは、とても単純な計算で求められます。
年間の家賃収入を、物件価格で割った割合です。
たとえば、価格2,000万円のワンルームマンションで、月7万円の家賃が見込めるとします。
年間の家賃収入は84万円。
84万円÷2,000万円で、表面利回りは4.2%です。
🐈ニャッタ:「計算は簡単だね。じゃあ、毎年4.2%ずつお金が増えていくってこと?」
🦉モーリー:「そう思いたくなるよね。でも、この数字には大事な前提が2つあるんだ。“想定した家賃が1年間入り続けること”と、“費用を引く前であること”だよ。」
実は、不動産広告のルールである「不動産の表示に関する公正競争規約」では、利回りは「1年間の予定賃料収入の物件価格に対する割合」とされていて、表示するときは、
予定賃料収入が確実に得られることを保証するものではないこと、
利回りには公租公課(税金)その他その物件を維持するために必要な費用が含まれていないこと、
を明示するよう定められています。
つまり、「広告の利回りは、想定した家賃が1年間入り続ける前提で、費用を引く前の数字である」ということは、広告のルールの上での前提になっているのです。
🐈ニャッタ:「広告の利回りって、“費用を引き算する前”の数字なんだね。」
🦉モーリー:「その通り。だから次は、何が引かれていくのかを見ていこう。」
2.広告の利回りから、引かれていくもの
🦉モーリー:「ワンルームマンションは、買ったあとも、いろいろなお金が動くんだ。出ていくお金もあれば、予定どおり家賃が入らないこともある。順番に見ていこう。」
2-1.毎月、出ていくお金
区分所有のマンションには、マンション全体を維持するための費用があります。
管理費と、修繕積立金です。
この2つは、分譲マンションの広告では、月額を表示するよう、表示規約で定められています。
つまり、広告に載ってはいても、利回りの計算に含まれていないのです。
そして、入居者がいてもいなくても、所有しているかぎり毎月支払わなくてはなりません。
さらに、入居者の募集や家賃の集金、クレーム対応などを管理会社に任せる場合は、賃貸管理の委託料もかかります。実務では、家賃の数%程度とされることが多いようです。
たとえば、さきほどの月7万円の家賃の物件で、
管理費と修繕積立金が月1.5万円、
賃貸管理の委託料が月0.35万円だったとします。
毎月の手取りは、7万円ではなく、約5.15万円になります。
この5.15万円で利回りを計算し直すと、年間約61.8万円÷2,000万円で、約3.09%。
表面利回り4.2%から、この時点で1%以上下がります。しかも、これはまだ固定資産税や空室、設備交換、保険料、ローンなどを引く前の数字です。
🐈ニャッタ:「家賃が全部もらえるわけじゃないんだ。」
🦉モーリー:「そう。しかも修繕積立金は、築年数が経つと段階的に引き上げられる計画になっていることも多いんだ。国土交通省もガイドラインを出しているけれど、マンション全体の修繕計画によって変わっていく数字なんだよ。」
2-2.毎年・ときどき出ていくお金
毎月の費用のほかにも、出ていくお金があります。
固定資産税・都市計画税。
火災保険や地震保険の保険料。
エアコンや給湯器など、設備が壊れたときの交換費用。
入居者が退去したあとの、クリーニングや原状回復の費用。通常の使用による損耗や経年変化の分は、原則としてオーナーの負担になります。
次の入居者を募集するときの、広告料や仲介手数料。
また、忘れられやすいのですが、買うときには登記費用や不動産取得税などの諸費用がかかります。さらに、家賃収入などから必要経費を差し引いて不動産所得が生じた場合には、所得税・住民税の負担も生じます。
これらは毎月ではないぶん、見落とされやすい費用です。
🦉モーリー:「設備の交換は、1回で十数万円かかることもある。毎月の収支がぎりぎりだと、こうした出費で、その年の収支が赤字になることもあるんだ。」
🐈ニャッタ:「“ときどき”だけど、金額は大きいんだね。」
2-3.空室と、家賃の変化
表面利回りは、想定した家賃が1年間入り続けることを前提にした数字です。
でも、入居者はいつか退去します。
退去から次の入居までのあいだ、家賃収入はゼロになります。
その間も、管理費・修繕積立金・税金・ローンの返済は続きます。
また、家賃そのものも、ずっと同じとは限りません。
建物が古くなったり、周辺に新しい物件が増えたりすると、家賃を下げないと入居者が決まらないこともあります。
🐈ニャッタ:「広告の利回りは、“今の家賃が1年間入り続けたら”の数字なんだね。」
🦉モーリー:「うん。でも、実際に物件を持つ期間は、それよりずっと長い。だから、利回りを見るときは、“この家賃は何年先でも維持できるのか”という問いを、いつも横に置いておく必要があるんだ。」
2-4.ローンを使って買う場合
ワンルームマンション投資は、ローンを組んで購入する場合が多いと言われます。
ローンを使うと、毎月の返済額が出ていきます。
家賃収入から、管理費・修繕積立金・管理委託料を引き、さらにローンの返済を引くと、毎月の手残りはわずかになるか、場合によってはマイナスになることもあります。
🐈ニャッタ:「えっ、家賃が入っているのに、毎月お金が減っていくこともあるの?」
🦉モーリー:「そういうケースもある、ということだね。ただ、ここで1つ整理しておきたいことがあるんだ。ローンの返済額には、利息と元本の返済が含まれている。どちらも毎月の現金収支を減らすけれど、元本の返済分は借入の残高を減らしていくから、単純な“費用”とは性質が違うんだよ。」
🐈ニャッタ:「お金は出ていくけど、そのぶん借金は減っているんだね。」
🦉モーリー:「ローンの元本が減ると借金は少なくなる。でも、それだけで得をしているかどうかは分からないんだ。」
「大切なのは、その不動産が市場でいくらの価値を持っているかなんだよ。」
「ワンルームマンション投資では、販売価格に販売会社の利益や広告費などが含まれていて、買った直後に売ると、購入価格より低い価格でしか売れないこともあるんだ。」
「だから、ローンが減っていても、不動産の価値の下がり方によっては、純資産が思うように増えていないこともあるんだよ。」
🐈ニャッタ:「広告の利回りだけじゃ、そこまでは分からないもんね。」
3.「家賃保証があるから安心」って本当? 〜サブリースという仕組み〜
🐈ニャッタ:「でも、“家賃保証付き”って書いてある広告もあるよ。空室でも家賃がもらえるなら、安心じゃないの?」
🦉モーリー:「いいところに気づいたね。それは“サブリース”と呼ばれる仕組みなんだ。たしかに空室の不安は減る。でも、ここにも確かめておくことがあるんだ。」
サブリースは、サブリース会社がオーナーから物件を借り上げ、入居者に転貸する仕組みです。
空室でも会社からオーナーに賃料が支払われるため、「家賃保証」と説明されることがあります。
ただし、注意したいのは、保証される賃料は、ずっと同じ額とは限らないということです。
多くの契約では、一定期間ごとに賃料が見直されます。周辺の家賃相場が下がれば、保証賃料の減額を求められることがあります。契約書に保証額が書かれていても、借地借家法の規定により賃料が減額される可能性があることは、国の注意喚起リーフレットでも示されています。
実際に、「家賃保証」という言葉を信じて契約したオーナーが、あとから賃料を減額され、ローンの返済が苦しくなる、というトラブルが社会問題になった時期がありました。
こうした経緯から、2020年6月に「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)」が公布され、サブリース事業に関する規制は同年12月から施行されました。
この法律では、サブリース業者に対して、
メリットだけを強調する誇大広告の禁止、
賃料減額のリスクなどを告げない不当な勧誘の禁止、
契約前の重要事項説明の義務、
などが定められています。
国土交通省も、消費者庁・金融庁と連携して、賃貸住宅経営に関する注意喚起のリーフレットを公表しています。
🐈ニャッタ:「法律ができたなら、もう安心なの?」
🦉モーリー:「法律は“説明されないまま契約してしまう”ことを防ぐためのものなんだ。賃料が見直される可能性そのものが消えたわけじゃない。だから、契約の中身を自分で確かめることは、今でも変わらず大事なんだよ。」
🐈ニャッタ:「サブリース契約のあと、売りたくなったらどうなるの?」
🦉モーリー:「売ることはできるよ。ただ、サブリース契約が付いたまま売る場合は、買う人もその契約内容を前提に購入を検討することになる。そのため、契約条件によっては売却価格に影響したり、売却しにくくなったりすることもあるんだ。」
4.それでも、どうして買う人がいるの?
🐈ニャッタ:
「なるほど…。でも、そんなに利益が出にくいなら、どうして買う人がいるんだろう?」
🦉モーリー:
「ワンルームマンションは、一棟アパートやマンションに比べると購入金額が小さいことが多いんだ。数千万円程度から始められるので、不動産投資の入口として勧められることも多い。」
「それに、家賃収入が入ることや、節税になる場合があること、将来の資産形成につながることなどは、ワンルームマンション投資を勧めるときによく使われる説明なんだ。」
🐈ニャッタ:
「たしかに、そう聞くと良さそうに見えるね。」
🦉モーリー:
「そうだね。でも、その説明だけでは見えない部分もあるんだよ。」
「これまで見てきたように、家賃収入からは管理費や修繕積立金、税金などが引かれていく。空室や家賃の下落もある。」
「そして、もうひとつ大切なのは、“いくらで買ったか”なんだ。」
🦉モーリー:
「不動産投資では、毎月の家賃収入に目が向きやすい。でも、不動産そのものをいくらで買ったかも、同じくらい大切なんだよ。」
「ワンルームマンションの販売価格には、販売会社の利益や広告費なども含まれている。その価格が、周辺の成約事例や物件の収益力から見て妥当とは限らない。だから、購入前に市場の相場と比べてみることが大切なんだ。」
「新築物件を購入してすぐに売却する場合でも、購入価格と同じかそれ以上で売れるとは限らない。売れる値段は市場の評価で決まるからね。」
🐈ニャッタ:
「家賃収入だけじゃなくて、売るときの値段も考えないといけないんだね。」
🦉モーリー:
「その通りだよ。」
「持っている間の収支がぎりぎりで、しかも高く買ってしまっていたら、家賃収入を受け取っていても、投資全体では利益が出にくいことがある。」
「だから、“買いやすいこと”と、“利益が出やすいこと”は別なんだ。」
5.「広告の利回り」と「実際の収支」のあいだにあるもの
ここまでを、いちど整理してみます。
広告の表面利回りから、実際の手残りまでのあいだには、
- 管理費・修繕積立金(広告には表示されますが、利回りの計算には含まれていません)
- 賃貸管理の委託料
- 固定資産税などの税金、保険料
- 設備交換・原状回復・募集の費用
- 購入時・売却時の諸費用
- 空室の期間
- 家賃の下落
- ローンの返済による毎月の現金流出(元本返済分は、借入残高を減らします)
- 売却時の価格
が隠れています。
🦉モーリー:「表面利回りは、嘘の数字じゃない。でも、“引き算が始まる前”の数字なんだ。引き算の中身は物件ごとに違うから、自分で確かめるしかないんだよ。」
🐈ニャッタ:「広告に書いてある利回りだけじゃ、本当にいくら残るのかは分からないんだね。」
🦉モーリー:「そうなんだ。だから利回りを見るときは、“何が引かれるのか”も一緒に見ないといけないんだよ。」
6.広告を見るときの問い
ワンルームマンション投資の広告を見るときは、次のような問いを持つと、数字の奥が見えやすくなります。
広告を見るときの問い
- この価格は、市場で取引されている価格と比べて高くないだろうか。
- この利回りから、管理費や修繕積立金、税金などを引くとどれくらい残るだろうか。
- 今の家賃は、5年後・10年後も続きそうだろうか。
- 空室になっても、費用やローンの返済に困らないか。
- 「家賃保証」の賃料は、見直される条件になっていないだろうか。
- 将来売却するとき、いくらで売れそうか。
🐈ニャッタ:「広告の数字を疑うっていうより、“数字の続き”を自分で計算してみる感じだね。」
🦉モーリー:「いい言い方だね。広告はうわべを見せてる。そこから先の道は、自分の足で確かめるんだ。」
7.モーリーのまとめ
ワンルームマンション投資が「儲からない」と言われるのは、広告の利回りと、実際の収支のあいだに、利回りの計算には織り込まれていない費用やリスクがいくつもあるからです。
管理費や修繕積立金が、毎月出ていくこと。
空室になれば、収入が止まっても支出は続くこと。
家賃保証にも、賃料見直しの可能性があること。
買った直後の「売れる値段」は、買った値段と同じとは限らないこと。
表面利回りは、嘘ではありません。
でも、それは引き算の前の、うわべの数字です。
🦉モーリー:「不動産の利回りを見るということは、その数字がどこから来て、ここから何が引かれていくのかを、ていねいに見ることなんだよ。」
参考にした原典
- 不動産の表示に関する公正競争規約・同施行規則(不動産公正取引協議会連合会)──利回りの表示、管理費・修繕積立金の表示に関する規定
- 賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(令和2年法律第60号、2020年6月公布)──サブリース業者の誇大広告等の禁止・不当な勧誘等の禁止・重要事項説明
- 国土交通省「賃貸住宅管理業法ポータルサイト」「サブリース事業に係る適正な業務のためのガイドライン」
- 国土交通省・消費者庁・金融庁「賃貸住宅経営(サブリース契約)に関する注意喚起リーフレット」
- 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」
- 独立行政法人国民生活センター「20歳代に増える投資用マンションの強引な勧誘に注意!」(2019年3月28日公表)
- 国税庁 タックスアンサー「No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」
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