実務の森

実務の森|不動産鑑定士って、価格を示す以外になにをしているの?──ミッドナイト不動産鑑定の仕事をのぞく

モーリー

深夜のミッドナイト不動産鑑定。

モーリーは、机いっぱいに広げた書類を静かに見つめていた。

道路の図面。市場レポート。マンションの管理資料。事業計画書。

どれも、対象不動産の価格そのものではない。

ニャッタ
ニャッタ
モーリー
モーリー
ニャッタ
ニャッタ
モーリー
モーリー
この記事の要点は三点。
  • 不動産鑑定法は「第1項業務か、第2項業務か」を決める。
  • ガイドラインは「価格等を文書に示すかどうか」で価格等調査を定義する。
  • 価格等調査には、第1項業務に当たるものも、第2項業務に当たるものもある。

1.価格を考える仕事のまわりには、いろいろな仕事がある

① 価格や賃料を示す仕事

その土地や建物の価値を判断して、売買のときの価格、貸し借りのときの賃料として示す仕事。

② 価格や賃料の手がかり(価格形成要因)を調べる仕事

市場の動き、建物の状態、地域、権利関係、リスクなど、価格や賃料を左右する要因を調べる仕事。

③ 利用・取引・投資について助言する仕事

価格や賃料そのものを判定して示すのではなく、その不動産をどう活かすか、売却するか保有するか、投資判断など、利用・取引・投資について助言する仕事。

(この三分類は本稿の整理で、法令の分類ではない。)

🐈 ニャッタ:①の“価格や賃料を示す仕事”って、価格だけじゃなくて、賃料も考えるの?

🦉 モーリー:そうだよ。売買のときの価格だけでなく、家賃や地代などの賃料も鑑定評価の対象になるんだ。

さて、この三つの仕事を、これから二つの分け方で見てみよう。一つめは「法律による分け方」、二つめは「ガイドラインによる分け方」。

大事なのは、この二つは別の視点による分類であること。

まずは法律から。

2.まず「法律による分け方」── 第3条は“不動産鑑定士の業務”を二つに分ける

不動産鑑定法は、まず第2条で「鑑定評価とは何か」を定義し、つづく第3条で不動産鑑定士の“業務”を二つに分けている。

法第2条(定義)

鑑定評価とは、不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示すること。※価額には価格・賃料が含まれる。

法第3条(業務)

第1項:鑑定評価業務 … 個別の不動産の経済価値を判定して、価格・賃料として示す、中心の業務。

第2項:隣接・周辺業務 … 鑑定士の名称を用いて行う、価格形成要因の調査・分析や、利用・取引・投資の相談。

さきほどの三つの仕事は、この二つの業務とこう重なる。

①の“価格や賃料を示す仕事”は、主に第1項の鑑定評価業務。

②の“手がかりを調べる仕事”は、第1項の鑑定評価の過程の一部のこともあれば、独立した第2項業務のこともある。

③の“利用・取引・投資について助言する仕事”は、主に第2項の相談業務。

ここで一本目の分かれ道 ── 第1項の仕事にも、二つのタイプがある

第1項(鑑定評価業務)の中には、じつは二種類の仕事が同居している。

不動産鑑定評価基準にすべて則って行うもの → 成果物は「不動産鑑定評価書」。

基準には則らないが、個別の経済価値を判定して価額で示しているもの → 実務では「調査報告書」「意見書」などと呼ばれることがある。

法律のものさしで測れば、どちらも同じ第1項の鑑定評価業務。「調査報告書」という名前でも、中身が経済価値の判定と価額表示なら、法的には第1項なんだ。そして、経済価値を判定して価額に表示していれば、法第39条上は「鑑定評価書」として扱われ、署名が求められる。

🐈 ニャッタ:えっ。「調査報告書」なのに「鑑定評価」なの?

🦉 モーリー:表紙に何と書いてあるかじゃないよ。個別の不動産の経済価値を判定して価額を示していれば、法律では第1項の鑑定評価業務にあたるんだ。

💡 モーリーのフクロウメモ ──名前ではなく、「個別の不動産の経済価値を判定して価額を示しているか」で分かれる
成果物の名前だけでは決まらない。第1項に当たるかどうかは、成果物の表題や「正式」「簡易」といった呼び方ではなく、個別の不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示しているかで決まる。「参考価格」「概算価格」「価格調査報告書」などの名称でも、個別の不動産の経済価値を判定して価額を示していれば第1項の業務に当たる。そのため、成果報告書には署名が必要になる。一方、鑑定評価基準に則らない成果物について、基準に則った鑑定評価と誤認させる「鑑定」「評価」の表示を用いないことにも注意が必要だ。

3.「隣接・周辺業務」って、たとえばどんなもの?

第2項の隣接・周辺業務は、鑑定士の名称を用いて、不動産の価値に作用する要因を調べたり分析したり、利用・取引・投資の相談に応じたりする仕事だ。たとえば、こんなものがある。

① コンサルティング

土地の有効活用の提案、開発事業の採算検討、不動産投資の分析、不動産戦略の助言 など。

② 市場の調査・分析

地価動向・賃料動向の調査、マーケットレポートの作成、エリア分析 など。

③ デューデリジェンス(資料調査・リスク分析など)

価格にかかわる要因の調査、リスク分析、資料の整理 など。証券化やM&Aなどに関連して行われることもある。

④ 価格を伴う周辺業務――名称だけでは区分できない

社内検討用の参考価格や、売却方針を決めるための価格レンジなど。ただし、経済価値の判定を伴って価額を示していれば、名称にかかわらず第1項の鑑定評価にあたる(フクロウメモ参照)。第2項にとどまるのは、経済価値の判定を伴わずに数値を示す場合だ。

🦉 モーリー:市場を調べたり、価格形成要因を分析したり、利用・取引・投資を考えたり──そうした仕事も、法律では「不動産鑑定士の名称を用いて」行う業務として整理されているんだ。

だから、不動産鑑定士という資格は、価格を示す仕事だけのためにあるわけじゃない。価格形成要因を調べ、利用・取引・投資について助言することも、法律で定められた大切な仕事なんだよ。

🐈 ニャッタ:だからモーリーは、毎日価格を書いているわけじゃなくても、不動産鑑定士なんだね。

🦉 モーリー:そう。価格を書く仕事もあれば、価格形成要因を調べたり、利用・取引・投資について助言する仕事もあるからね。

4.つぎに「ガイドラインによる分け方」── 価格を“文書で示すか”で分ける

🦉 モーリー:法律が「業務の性質」で分けるのに対して、ガイドラインは別のところを見ているんだ。「価格や賃料を、文書(データを含む)に示したかどうか」をね。

「価格等調査ガイドライン」(正式名称:不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン)は、「価格等調査」という言葉をこう定義している。

価格等 … 不動産の価格又は賃料。

文書等 … 文書又は電磁的記録。

価格等調査 … 不動産の価格等を文書等に表示する調査。

つまり、ガイドラインの適用範囲にある業務では、価格・賃料を文書やデータで示した時点で「価格等調査」。そこに、ガイドラインという業務の進め方のルールがかかってくる(ただし、地価公示等の適用除外がある。後述)。

ここで効いてくるのが――“示し方”は問わない、ということ。

単一の価格(「1億円」)でも、レンジ(「0.9億〜1.1億円」)でも、

単価でも総額でも、

「参考価格」「価格意見」という呼び名でも、

価格・賃料を文書で示している以上、ぜんぶ価格等調査。

日本不動産鑑定士協会連合会「価格等調査ガイドラインの取扱いに関する実務指針」も、「単一の価格等で示しているか幅で示しているか等にかかわらず…『価格等を示す』に含まれる」としている。

🐈 ニャッタ:レンジ(幅)でも「価格を示した」ことになるんだ。

🦉 モーリー:そう。だから「幅にしておけばルールの外」とはいかないんだよ。

そして、価格等調査に当たる業務は、第1項の鑑定評価業務にも、第2項の隣接・周辺業務にもある。価格等調査に当たれば、第1項・第2項の区分を横断して、ガイドラインが適用される。なお、不動産鑑定士が第2項業務を直接受任する場合は、ガイドラインが準用される。

🦉 モーリーのひとこと
ガイドラインは“簡易な評価のルール”というより、価格を扱う仕事を、どんな手続きで進め、どこまで鑑定評価の基準から離れてよいかを整理した“交通整理”のルール。鑑定評価基準が「どう評価するか」の技術的な指針なら、ガイドラインは「どんな段取りで価格を示すか」の手続的な指針と捉えるほうが役割に近い。ガイドラインを読んでいると、不思議なことに気づくんだ。「基準に則らない価格等調査」と書いてあるのに、則らない理由や、どこが基準と違うのかを、きちんと説明するよう求めている。だから私には、ガイドラインは基準から離れるための指針というより、新しい道が増えた森でも基準という大きな道を見失わないように置かれた道しるべのように見えるんだ。

5.二つの分類は、別の視点でできている──ここが森でいちばん迷うところ

🦉 モーリー:さあ、ここが第一景でいちばん大事なところ。

法律による分類(第3条)は、業務そのものの性質を、第1項と第2項に分ける。

ガイドラインによる分類(価格等調査)は、その業務が価格・賃料を文書に示すかどうかで、ルールがかかる/かからないを分ける。

見ているものが違うから、この二つの分類は一致しない。

実務指針も、価格等調査かどうかの区分は「鑑定法第3条第1項の業務と同条第2項の業務との区分と一致しているものではなく」としている。

図では「第3条=たて、ガイドライン=よこ」と考えると整理しやすい。

二つの分類を掛け合わせると、図のうえでは四つのますめができる。ただし、一つは定義上ほぼ空欄になる――第1項業務は、経済価値を判定し、その結果を価額に表示することを本質とするため、「第1項業務だが価格等を示さない」という区分は、定義上、原則として成立しない。

実務では、おもに次の三つの型に整理できる。

・第1項業務 であり、価格等調査に当たるもの
・第2項業務 であり、価格等調査に当たるもの
・第2項業務 であり、価格等調査に当たらないもの

価格・賃料を文書等に示す= 価格等調査(ガイドラインがかかる)価格・賃料を示さない= 価格等調査ではない(適用なし)
法 第3条 第1項鑑定評価業務中心はここ。・基準に則る → 「不動産鑑定評価書」・基準に則らない → 実務上「調査報告書」「意見書」等名称が何であれ、個別不動産の経済価値を判定して価額表示していれば法的には第1項。定義上ほぼ空欄。第1項は経済価値を判定し価額として表示することが本質なので、価格を示さない第1項は実際上ない。
法 第3条 第2項隣接・周辺業務価格を文書で示す隣接・周辺業務。経済価値の判定を伴わず、一定の計算・指標等による数値を価格等として示す業務(例:正面路線価を一律0.8で割り戻した額を価格として示す)→ ガイドラインを準用価格を示さない隣接・周辺業務。・コンサルティング、市場調査・分析、利用/取引/投資の相談 など→ ガイドラインの適用なし

「参考価格」「価格意見」「価格レンジ」は成果物の“名称”であって、それ自体では第1項・第2項を決めない。経済価値の判定を伴えば、名称にかかわらず第1項になる。

🐈 ニャッタ:なるほど。たてとよこでますめができて、でも一つはほとんど空っぽなんだね。

🦉 モーリー:そう。実務で出会う価格の文書は、たいていこの三つのどこかにいる。森で迷ったら、まず「これは第何項の仕事か」と「価格を文書で示しているか」を、別々に確かめる。それだけで、ぐっと見通しがよくなるんだ。

📌 ひとつ注意(適用除外)
ただし、地価公示や都道府県地価調査など別の法令等で定められた仕事や、一定の再受託業務には、このガイドラインは適用されない。「価格を示す仕事すべてに例外なくかかる」とまではいえない点も、頭の隅に置いておこう。

まとめ──“鑑定士の仕事は、森のどこにある?”

鑑定士の仕事は、この記事では「価格や賃料を示す/その手がかりを調べる/利用・取引・投資について助言する」の三つに整理した(法令の公式分類ではない)。

法律による分類(第3条)は“業務の性質”で分ける。法第2条が鑑定評価の定義、法第3条が第1項(鑑定評価業務)と第2項(隣接・周辺業務)。

ガイドラインによる分類(価格等調査)は“価格を文書で示すか”で分ける。示せば価格等調査、示さなければ対象外。価格等調査かどうかは、第1項/第2項の区分とは一致しない別の軸。

第1項にあたるかは、“名前”ではなく、個別の不動産の経済価値を判定して価額に示しているかどうかで決まる。

個別の不動産の経済価値を判定して価額を示していれば、第1項業務となり、成果報告書は法第39条の鑑定評価書として扱われ、署名が求められる。

価格を文書で示せば、単一の価格でも幅(レンジ)でも、参考価格でも、価格等調査としてガイドラインがかかる(地価公示等の適用除外を除く)。

実務では、おもに次の三つの型に整理できる。

・第1項業務であり、価格等調査に当たるもの
・第2項業務であり、価格等調査に当たるもの
・第2項業務であり、価格等調査に当たらないもの

だからこそ、価格を読む前に「その価格・賃料が、何を確かめ、どんな前提で考えられたものか」を確かめると、森で道に迷いにくい。

🌲 そして、次の景へ
②の仕事──価格や賃料の手がかり(価格形成要因)を調べる仕事。不動産の価格は、建物の状態、市場の動き、権利関係、道路、管理状況など、さまざまな価格形成要因によって変わる。その手がかりを、ひとつずつ拾い集めていくのが、次の景だ。ニャッタも、置き忘れたフィールドノートを手に、いよいよ森の奥へ歩きはじめる。

第二景「手がかりを拾う」では、価格形成要因を一つずつ見ていく。

🌲 夜の森を歩いてみる
このサイトでは、不動産の価格が立ち上がるまでの道筋を、「実務の森」を歩きながら、キャラクターの会話でたどっています。
いま読んだ話は、第一景「前提を置く」で出会うことのひとつです。依頼目的や条件を整理しながら、価格を見るための“枠”を整えていく景へ。

第一景|前提を置く

この記事の原典

この記事は、以下の原典をもとに整理しています。制度や運用は更新されることがあるため、実務で利用する際は、最新の原典をご確認ください。

法令

不動産の鑑定評価に関する法律(略称:不動産鑑定法)

 第2条(鑑定評価の定義)・第3条(業務)・第39条(鑑定評価書)/e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/338AC0000000152

国土交通省 公表資料

価格等調査ガイドライン(平成21年8月28日策定/平成26年5月1日一部改正・国土交通省)Ⅰ.総論(趣旨・定義・適用範囲) https://www.mlit.go.jp/common/001204045.pdf

価格等調査ガイドラインの運用上の留意事項(令和3年8月30日一部改正・国土交通省)── 鑑定評価基準への準拠の有無にかかわらず、経済価値を判定し価額表示していれば法第3条第1項業務に該当し、成果報告書は法第39条の鑑定評価書となる旨(運用上の留意事項Ⅲ)。

日本不動産鑑定士協会連合会

「価格等調査ガイドライン」の取扱いに関する実務指針(鑑定評価基準委員会、平成26年9月策定/令和3年11月24日一部改正)── 価格等調査の範囲(単一か幅かを問わない)、第3条第1項業務と第2項業務の区分と価格等調査の区分は一致しないこと、基準=技術的指針/ガイドライン=手続的指針の整理。

※ 各原典の最新版の掲載状況は、国土交通省の「法令・不動産鑑定評価基準等」ページおよび日本不動産鑑定士協会連合会「公開資料」で確認できます。

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