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実務の森|大規模修繕前のマンションは安い?── 工事のあとさきと、価格の手がかり

モーリー

モーリーとニャッタは、足場とシートにまわりを包まれた一棟のマンションの前を通りかかった。

シートのむこうで、アライグマの職人さんたちが静かに働いている。

ニャッタ
ニャッタ
モーリー
モーリー
ニャッタ
ニャッタ
モーリー
モーリー

今回は、そんな“大規模修繕”の基本と、それが価格にどう映るのかを、モーリーたちと見ていこう──。

🦉 はじめに(結論から)

結論からいうと、“大規模修繕の前だから一律に安い・後だから必ず高い”とは言えない。価格を読む手がかりは、工事の前後そのものよりも、長期修繕計画・修繕積立金・滞納の状況のなかにある。この記事では、基本から順にたどっていくよ。

1.大規模修繕って、そもそも何をするの?

🐈ニャッタ:「修繕って、壊れたところを直すこと?」

🦉モーリー:「近いけど、少し違う。大規模修繕は、壊れてから直すというより、傷みが大きくなる前に、建物の共用部分を、計画的に手入れする工事なんだ。外壁、屋上の防水、鉄の手すりや階段、給排水の管──マンションの住人みんなで使う共用部分が対象だよ。」

🐈ニャッタ:「部屋の中は?」

🦉モーリー:「原則として、部屋の中=“専有部分”はそれぞれの持ち主が直し、共用部分は管理組合が管理・修繕する。ただし、配管などは部位や管理規約によって扱いが変わることもあるから、そこは個別の確認が必要なんだ。共用部分の工事は管理組合が主体となって行い、費用は主に“修繕積立金”が充てられる。だから大規模修繕は、持ち主である区分所有者から集めたお金で、建物を直す工事ともいえるね。」

🦉モーリー:「ただ、積立金が足りないときは、一時金を集めたり、借入れをしたりすることもある。“積立金だけで必ずまかなえる”とは限らないんだ。」

💡 モーリーのフクロウメモ

マンションには「専有部分(部屋の中)」と「共用部分(外壁・廊下・共用設備など)」がある。大規模修繕が扱うのは、主に後者の共用部分。誰の負担で・誰が決めて直すのかは、この線引きから始まるんだ(配管など、一部は管理規約で扱いが分かれることもある)。

2.「12年ごと」って、決まりなの?

🐈ニャッタ:「大規模修繕って、12年ごとにやるって聞いたよ。法律で決まってるの?」

🦉モーリー:「よく聞く数字だね。でも、“何年ごとにやりなさい”と法律で義務づけられているわけではないんだ。目安のもとになっているのは、国土交通省の『長期修繕計画作成ガイドライン』。ここで修繕周期の考え方が示されている。」

🐈ニャッタ:「じゃあ、12年って数字はどこから来たの?」

🦉モーリー:「以前から、大規模修繕は“12年に一度”という言い方が広く知られていて、それが定番の数字になったんだ。いまのガイドライン(国土交通省・令和6年〔2024年〕6月改定版)でも、外壁塗装や防水、シーリングといった代表的な工事では、12〜15年程度を目安とする例が示されている。実際、国の実態調査でも、大規模修繕の約7割が12〜15年の周期で行われていたよ。すべてのマンションに一律の周期があるわけではなく、部材や工法、劣化の状況に応じて設定する考え方なんだ。材料や工法が進歩して、以前より長くもつようになった部分があるからね。」

🦉モーリー:「それに、ガイドラインは計画期間を“30年以上で、かつ大規模修繕工事が2回ふくまれる期間以上”としている。そして、計画そのものはおおむね5年ごとに見直すのが基本。見直しや工事の検討にあたっては、必要に応じて建物の調査・診断も行う。“12年で1回やって終わり”ではなく、長い時間をかけて何度も向き合うものなんだ。」

📝 ポイントまとめ

・大規模修繕の時期は、法律で「何年ごと」と義務づけられているわけではない

・国交省ガイドラインでは、外壁塗装や防水など代表的な工事について、修繕周期の目安が「12〜15年」程度として示されている(実態調査でも約7割が12〜15年周期。ガイドライン最新版は令和6年〔2024年〕6月改定)

・計画期間は「30年以上かつ大規模修繕2回をふくむ期間以上」で、計画はおおむね5年ごとに見直す(必要に応じて調査・診断を行う)

3.費用は、いくらくらいかかるの?

🐈ニャッタ:「それだけ大きな工事だと、お金もたくさんかかりそう。」

🦉モーリー:「国土交通省は『マンション大規模修繕工事に関する実態調査』で、実際に行われた工事の金額を集計して、公表している。それを見ると、1戸あたりの工事費にはかなり幅があるんだ。」

🐈ニャッタ:「1回目と2回目で、違ったりするの?」

🦉モーリー:「ちょっと意外かもしれない。令和3年度調査では、回数別の戸あたり中央値は1回目110.2万円、2回目106.1万円、3回目以上97.0万円だった。ただし、これは同じマンションを追跡した結果ではなく、別々の事例を回数別に集計した数字だよ。回数が多いグループのほうがむしろ低くなっていたんだ。」

🐈ニャッタ:「古くなるほど高くなりそうなのに、逆なんだ?」

🦉モーリー:「ここは注意が必要でね。建物の規模や築年数、工事の範囲、対象が回ごとに違う。だから“回を追って必ず下がる”とか、理由はこの数字だけではわからない。“2回目は必ず安い”という意味でもないよ。」

🦉モーリー:「金額はマンションの戸数や仕様で大きく変わるから、国交省も、自分のマンションと同じくらいの規模のデータと、戸あたり・床面積あたりで見比べることをすすめている。」

💡 モーリーのフクロウメモ

「うちの大規模修繕は高い?安い?」は、総額だけでは判断できない。戸あたり・床面積あたりに直して、似た規模のマンションの工事費用の分布とくらべる──それが、国の実態調査が用意してくれている見方なんだ。なお、公表されている戸あたり金額には共通仮設費や消費税が含まれていないので、見積りと比べるときはその点もそろえて見ること。

4.工事の中身は、毎回同じなの?

🐈ニャッタ:「2回目、3回目って、同じ工事をくり返すの?」

🦉モーリー:「名前は同じ“大規模修繕”でも、中身は回ごとに変わっていくんだ。1回目は外壁の補修や塗り替え、屋上防水、鉄部の塗装が中心になりやすい。回を重ねると、それに加えて、給排水の管、玄関ドアやサッシ、機械式駐車場といった“設備の更新”が加わってくることがある。実態調査でも、工事回数が増えるほど、塗装や防水だけでなく設備の更新なども視野に入りやすくなる傾向が見えているよ。」

🐈ニャッタ:「だんだん、直すところが変わっていくんだね。」

🦉モーリー:「そう。だから“前回これくらいだったから次も同じ”とは限らない。何を・いつ直す予定かは、“長期修繕計画”という将来の見通しに書き込まれている。その計画を見ると、これから、どんな工事にどれくらいのお金がかかるかが、ある程度見通せるんだ。」

5.価格の手がかりは、どこで確認する?

🐈ニャッタ:「そういう情報って、どこで手に入るの?」

🦉モーリー:「購入を検討するときは、仲介会社などを通じて確認していくことが多い。管理に係る“重要事項調査報告書”(宅建業法の“重要事項説明書”とは別のもの。マンションの管理状況をまとめた資料だよ。)、長期修繕計画、総会議事録、決算書などがおもな資料だよ。」

🐈ニャッタ:「そこに、何が書いてあるの?」

🦉モーリー:「まず長期修繕計画。いつ作られて、最後に見直されたのはいつか。これから予定されている工事の時期や金額が、どのくらい具体的に見えているか。それが総会でどう決まっているかも、ひとつの手がかりになるね。前回の大規模修繕がいつ行われたかも、あわせて見ておきたい。」

🦉モーリー:「次に、修繕積立金。いまの残高だけでなく、これからの工事費に対して足りそうかどうか。値上げや一時金、借入れの予定があるかも気になるところだね。」

🦉モーリー:「そして、滞納。マンション全体の滞納額に加えて、買おうとしている住戸そのものに管理費や修繕積立金の滞納がないかも、忘れずに確認したい。」

🦉モーリー:「過去の修繕履歴や、直近の総会議事録・決算書も見ておくと、管理の体力がつかめるよ。ただし、資料の名称や開示の範囲は物件によって異なる点は、あらかじめ頭に入れておいてね。」

🐈ニャッタ:「資料をそろえると、かなりのことが見えてくるんだね。」

🦉モーリー:「そう。次の問いは、“で、それが価格にどう映るか”だね。」

6.大規模修繕前のマンションは、安いの?

🐈ニャッタ:「最初の疑問にもどるけど──工事の前のマンションは安くて、あとは高くなるの?」

🦉モーリー:「そこが、簡単には言い切れないところなんだ。工事のあとは、外壁がきれいになって、見た目の安心感はたしかに上がる。でも、それがそのまま価格に上乗せされるとは限らない。」

🐈ニャッタ:「じゃあ、工事の前は?」

🦉モーリー:「工事をひかえているマンションでは、一時金の徴収や積立金の値上げが待っているかもしれない──さっき確認してきた“積立の体力”が、ここで効いてくるんだ。積立が計画通りに積まれていれば、工事前でも買い手は安心しやすい。逆に、不足が見えていたり値上げが確実だったりすれば、それが価格に影を落とすこともある。」

🐈ニャッタ:「工事中は?足場がかかってたら、住みにくそうだけど。」

🦉モーリー:「工事中はバルコニーが使いにくくなったり、騒音が出たりする。でも、その不便さが価格にどの程度映るかは、そのときの需給にも左右される。買いたい人が多ければ、それほど気にされないこともあるし、選べる物件がたくさんあれば、敬遠されることもあるんだ。」

🐈ニャッタ:「同じ工事でも、気にされるときと、されないときがある。」

🦉モーリー:「そうなんだ。だから正直にいうと、少なくとも公的な統計から“大規模修繕の前後だけで売買価格が一律に何%上がる・下がる”と示すのは難しい。価格は立地、築年数、住戸の条件、市況、管理の状態など、たくさんの要因で決まるからね。」

🐈ニャッタ:「じゃあ、工事の前後を気にするより……」

🦉モーリー:「その工事を、無理なく進められる状態にあるかどうか。第5章で確認してきた計画・積立・滞納の話が、価格を見るときの手がかりになってくる。」

🦉 モーリーのひとこと

価格の手がかりは、工事の前後だけでなく、その工事を支える計画や積立の中にも隠れているのかもしれない。

まとめ──“大規模修繕”

✅ 大規模修繕は、共用部分を計画的に手入れする工事で、主に修繕積立金が充てられる(不足時は一時金や借入によってまかなうことがある)

✅ 「何年ごと」という法的な義務はなく、国交省ガイドラインでは代表的な工事の修繕周期の目安を「12〜15年」程度として示している(実態調査でも約7割が12〜15年周期。最新版は令和6年〔2024年〕6月改定)

✅ 1戸あたりの工事費は幅が大きく、令和3年度の実態調査では戸あたり中央値が1回目110.2万円→2回目106.1万円→3回目以上97.0万円。ただし共通仮設費・消費税を含まず、回数別の集計であって経時変化ではない。規模をそろえて比べることが基本。

✅ 工事の中身は回ごとに変わり、回を重ねると給排水管・サッシ・機械式駐車場などの設備更新も視野に入りやすくなる

✅ 「工事の直後だから高い・直前だから安い」と単純化せず、長期修繕計画・積立金・滞納の状況をセットで読む(仲介会社等を通じて重要事項調査報告書などで確認。開示範囲は物件により異なる)

参考にした原典

・国土交通省『長期修繕計画標準様式・長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント』(平成20年6月策定/令和6年6月改定) PDF

・国土交通省『令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査』 PDF

・国土交通省「住宅:マンション管理(各種ガイドライン等 掲載ページ)」 ページ

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