用途地域を読む

モーリー

── この街は、どんな使われ方が想定されているのか

まえがき

街を歩いていると、住宅街のなかに小さなお店があったり、駅前にぎゅっとビルが集まっていたり、川沿いに工場が並んでいたりする。なんとなく「ここはこういう場所」という空気が、街には流れている。

その空気は偶然に生まれたものではなく、「この街のこの場所は、こういう使われ方を中心にしていこう」という計画が、長い時間をかけて重ねられてきた結果です。その計画を支えている仕組みのひとつが、都市計画法の「用途地域」と呼ばれるものです。

用途地域は、市街地の大枠としての土地利用を定めるもので、現在は13種類あります。住宅を中心に守る地域、商業を中心に育てる地域、工業のための地域。それぞれの地域には、目指している街の姿があり、そこから建てられる建物の種類や大きさが整理されています。

この本では、13種類の暗記から少し離れて、「都市をどう計画しようとしている制度なのか」という流れを追いかけていきます。改正の経緯をたどると、その時代に何を整えようとしていたのかが見えてきます。そしてもうひとつ、不動産鑑定評価のなかで使われる「用途的地域」という、よく似ているけれど少し違う概念にも触れていきます。

用途地域は、価格そのものを決める制度ではありません。ただ、価格へ向かう道すじを考えるとき、「この土地はどのような使われ方を想定された場所か」という問いは、行政的要因として鑑定評価のなかで何度も登場します。レコルとしては、その手前にある「街を計画するという考え方」のほうから、用途地域を読み直してみたいと思いました。

🐿 レコル:「この本はね、用途地域を13個ぜんぶ覚えるための本じゃないよ。〈街をどう計画しようとしている制度なのか〉という流れのなかに、13種類が置かれているんだ、と読んでいくと、見える景色が変わってくるよ。」

第一章 用途地域とは何か

── 都市計画のなかでの位置づけ

1.都市計画法という大きな枠

用途地域は、単独で存在する制度ではなく、都市計画法という大きな枠のなかに置かれています。都市計画法は、都市計画の内容や決定手続、都市計画制限、都市計画事業などについて定めることで、都市の健全な発展と秩序ある整備を図ることを目的としている、と整理されています(都市計画法第1条)。

都市計画法は、まず街全体に「都市計画区域」を定め、そのなかをさらに「市街化区域」と「市街化調整区域」に区分(線引き)するという二段構えの仕組みを持っています。市街化区域は、すでに市街地となっている地域と、これからおおむね十年以内に市街化を図るべき地域。市街化調整区域は、市街化を抑制する地域です。

用途地域は、市街化区域では定めるものとされ、市街化調整区域では原則として定めないものとされています。

つまり用途地域は、「市街化を進めていく場所のなかで、どの場所をどう使っていくのか」を整理する制度として位置づけられています。

2.用途地域は「色塗り」である

都市計画図を開くと、街が色とりどりに塗り分けられています。黄緑色の低層住宅地、黄色の住居系地域、ピンクや赤の商業地、紫の工業地。地域の目指すべき土地利用の方向を考えて、用途地域という形で「色塗り」が行われている、と国土交通省の資料は説明しています。

用途地域が指定されると、それぞれの目的に応じて、建てられる建物の種類が決められます。建てられる建物の用途は、建築基準法第48条と別表第二によって整理されていて、住居系地域では工場が制限され、工業系地域では住宅の建築に一定の配慮がある、というふうに、用途ごとの整理がされていきます。

🐿 レコル:「都市計画図を見るときは、まず〈色塗り〉から眺めてみるといいよ。色の境目には、〈ここからは別の使われ方を想定したい〉という静かな想いが引かれているんだ。」

3.何のための制度か

用途地域を一文で言いあらわすのは難しいのですが、国土交通省の資料に立ち戻ると、「住居、商業、工業など市街地の大枠としての土地利用を定めるもの」と書かれています。〈大枠としての土地利用〉という言い方が、この制度の性格をよく表しているように見えます。

都市が大きくなると、静かに暮らしたい場所のすぐ隣に大きな工場が建ったり、にぎやかに商売をしたい場所のなかに住宅が虫食いのように入り込んだりして、お互いの環境が損なわれてしまうことがあります。そこで、最初から「ここは住宅を中心に」「ここは商業を中心に」「ここは工業を中心に」という大枠を定めておき、その枠の中で個別の建物を整えていきましょう、という発想が用途地域の根っこにあるようです。

用途地域は、「個別の建物をしばる」というよりも、「街の使われ方の方向性を共有する」ための制度として読んでいくと、流れがつかみやすくなります。

第二章 用途地域の歴史をたどる

── なぜ細分化されてきたのか

用途地域は、最初から13種類だったわけではありません。少しずつ細分化され、そのたびに新しい問題意識が制度のなかに織り込まれてきました。改正の流れをたどると、その時代の街がかかえていた課題が見えてきます。

1.旧都市計画法と市街地建築物法(大正・昭和初期)

日本で都市計画にかかわる本格的な法律が整えられたのは、大正8年(1919年)の旧都市計画法と市街地建築物法だと整理されています。市街地建築物法のもとで、関東大震災(大正12年・1923年)による指定案の見直しを経て、大正14年(1925年)には東京市・大阪市などで初めて用途地域が指定されました。当初は「住居地域・商業地域・工業地域」というおおまかな3種類から始まったとされています(その後、昭和13年に準工業地域が加わり、4種類に整理されていきます)。

この時期の用途地域は、まだ細やかな分類ではありませんが、「街を用途で分けて考える」という発想そのものが、ここで日本の都市計画に組み込まれた、と読むことができます。

2.昭和25年・建築基準法の制定と昭和43年・新都市計画法

戦後、昭和25年(1950年)に建築基準法が制定されます。市街地建築物法の流れを受け継ぎながら、建物の最低基準を全国一律で整える法律として整理し直されました。建築基準法の第48条と別表第二が、用途地域ごとの「建てられる建物・建てられない建物」を支える条文として、現在まで続いています。

そして昭和43年(1968年)、高度経済成長で都市に人口や産業が集中し、無秩序な市街地化(スプロール)への対応が求められるなかで、新しい都市計画法が制定されました。この新法では、市街化区域と市街化調整区域を分ける「線引き」が導入され、用途地域もそれまでの4種類から8種類へと細分化されました。

8種類の内訳は、第一種住居専用地域・第二種住居専用地域・住居地域・近隣商業地域・商業地域・準工業地域・工業地域・工業専用地域、というかたちで整理されたとされています。住居系を「専用地域」と「住居地域」に分け、商業を二段階、工業を三段階に整理した構造は、ここで一度組み立てられました。

3.平成4年の改正 ── 8種類から12種類へ

平成4年(1992年)の都市計画法・建築基準法の改正で、用途地域は8種類から12種類へと細分化されます。大都市の都心部などで、事務所ビルが住宅地に無秩序に入り込んだり、車庫不足が深刻になったりという問題が起こり、もう少しきめ細かな用途規制が必要だと考えられたためです。

この改正で、住居系の地域は次のように細かく組み直されました。低層住宅を守る「第一種低層住居専用地域・第二種低層住居専用地域」、中高層住宅を守る「第一種中高層住居専用地域・第二種中高層住居専用地域」、住宅を中心としつつもう少し用途が混じることを許容する「第一種住居地域・第二種住居地域・準住居地域」。

住居系を「低層」「中高層」「住居」と三段階に重ねるかたちで整理し直したことで、街のどこをどんな密度の住宅地として育てるか、という方向性が、用途地域だけでもある程度読み取れるようになりました。

🐿 レコル:「平成4年の改正は、〈住宅地〉のなかに〈どのくらいの高さ・密度を想定するか〉という階段を作った感じだね。〈第一種低層〉と〈準住居〉では、まったく別の街並みを思い描いているんだ。」

4.平成30年の田園住居地域 ── 25年ぶりの新類型

平成29年(2017年)に都市計画法が改正され、新たに13番目の用途地域として「田園住居地域」が定められました(施行は平成30年4月1日)。用途地域の追加は、平成4年に8種類から12種類に増えて以来、25年ぶりのこととされています。

背景には、都市のなかにある農地を「いずれ宅地化するもの」ではなく、「都市に残しておきたいもの」として位置づけ直す動きがあります。生産緑地制度の見直しや、都市農業振興基本計画のなかで、都市にある農地は「あるべきもの」へと整理し直されてきました。

田園住居地域は、「住宅と農地が混在し、両者が調和して良好な居住環境と営農環境を形成している地域」を、あるべき市街地像として都市計画に位置づける、と国土交通省は説明しています。住居系用途地域の一類型として位置づけられ、低層住居専用地域に近い建築制限を受けつつ、農産物の直売所や農家レストランといった農業の利便増進に必要な施設が建てられるように整えられました。

この改正には、「農地を都市の構成要素として位置づける」という意義がある、と読まれています。用途地域の歴史のなかで、住宅と工業を分けるという発想から始まり、住宅の密度をきめ細かく整える発想を経て、ついには「都市と農地の共存」までもが用途地域の枠の中に取り込まれた、と捉えると、制度が見つめている景色の広がりが見えてきます。

🐿 レコル:「田園住居地域は、〈農地を都市から追い出さない〉という意思表示なんだと思う。〈ここに田んぼがあっても、街として読みますよ〉と都市計画図に書き込まれた感じだね。」

第三章 13種類を読む

── それぞれの地域は何を守ろうとしているのか

ここでは、13種類の用途地域を、住居系・商業系・工業系の三つに分けて見ていきます。それぞれの定義は、都市計画法第9条に書かれた目的の文章をもとにしています。条文を覚えるためではなく、「何を守ろうとしている地域なのか」を読みとるための入口として並べていきます。

1.住居系(8地域)

① 第一種低層住居専用地域

「低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域」と定義されています。13種類のうちもっとも静かな住宅地として想定され、建物の高さや建ぺい率・容積率が低く抑えられます。戸建てを中心に、小規模な兼用住宅や、生活に必要な小さな施設のみが認められる、という整理です。

② 第二種低層住居専用地域

「主として低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域」と定義されています。第一種低層に近い性格を持ちながら、小規模な店舗が認められるなど、もう少しだけ用途の幅を持たせた整理です。

③ 第一種中高層住居専用地域

「中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域」と定義されています。マンションなどの中高層住宅を中心に想定し、それを支える病院や大学、中規模までの店舗などが認められます。

④ 第二種中高層住居専用地域

「主として中高層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域」と定義されています。中高層住宅を中心に置きつつ、より大きな店舗や事務所も一定の範囲で認められるようになります。

⑤ 第一種住居地域

「住居の環境を保護するため定める地域」と定義されています。住宅を中心とする地域でありつつ、ある程度の規模の店舗や事務所、ホテルなども建てられる、住宅地の中でもっとも「街の機能」と混じり合う側に近い性格を持ちます。

⑥ 第二種住居地域

「主として住居の環境を保護するため定める地域」と定義されています。住居系のなかでは、商業的な施設や遊技施設なども一定の範囲で許容され、駅前から少し離れた賑わいのある住宅地のイメージに近づきます。

⑦ 準住居地域

「道路の沿道としての地域の特性にふさわしい業務の利便の増進を図りつつ、これと調和した住居の環境を保護するため定める地域」と定義されています。幹線道路の沿道などを想定した地域で、自動車関連施設なども含めて沿道型の業務と住宅を共存させる整理です。

⑧ 田園住居地域

「農業の利便の増進を図りつつ、これと調和した低層住宅に係る良好な住居の環境を保護するため定める地域」と定義されています。低層住居専用地域に近い建築制限を受けながら、農産物の直売所や農家レストランなど、農業を支える施設が認められます。平成30年4月施行の、もっとも新しい用途地域です。

🐿 レコル:「住居系って、〈低層〉〈中高層〉〈住居地域〉〈準住居〉〈田園住居〉と段階的に並んでいるんだ。〈どのくらいの静けさ〉〈どのくらいの混じりあい〉を許すのかで、地域の性格が変わっていくよ。」

2.商業系(2地域)

⑨ 近隣商業地域

「近隣の住宅地の住民に対する日用品の供給を行うことを主たる内容とする商業その他の業務の利便を増進するため定める地域」と定義されています。地域に密着した商業地で、住宅と商店、事務所が比較的近い距離で共存することを想定しています。

⑩ 商業地域

「主として商業その他の業務の利便を増進するため定める地域」と定義されています。建物の用途に関するほとんどの制限が外れ、容積率も大きく取れるため、駅前や都心部の中心市街地としてイメージされる地域です。ただし、住居の建築が禁じられているわけではなく、住居と商業が高密度に共存する想定です。

🐿 レコル:「商業地域は〈何でも建てやすい場所〉に見えるけれど、それは〈ここを街の中心として育てたい〉という都市計画上の想いが込められているとも読めるよ。」

3.工業系(3地域)

⑪ 準工業地域

「主として環境の悪化をもたらすおそれのない工業の利便を増進するため定める地域」と定義されています。中小工場や流通施設のほか、住宅や店舗も建てられる、もっとも用途が幅広い地域のひとつです。下町の工場街など、住宅と中小工場が混じり合う地域に指定されることが多いと整理されています。

⑫ 工業地域

「主として工業の利便を増進するため定める地域」と定義されています。工業のための地域でありつつ、住宅や小規模な店舗も建てられます。ただし、学校や病院、ホテルなどは制限されます。住宅と工業が一定の範囲で共存する地域です。

⑬ 工業専用地域

「工業の利便を増進するため定める地域」と定義されています。住宅や学校、病院などを建てることができず、用途地域のなかで唯一、住宅の建築が認められない地域です。臨海部の工業団地や大規模工場の集積地などに指定されます。

🐿 レコル:「工業系は、〈準工業/工業/工業専用〉と進むにつれて、住宅が建てられる余地が小さくなっていくんだ。〈工業専用〉は、住むことを前提にしない街として、街の中ではっきりと別の役割を担っている場所だね。」

第四章 用途地域が決めるもの

── 建築制限の流れ

用途地域が指定されると、その土地に建てられる建物の姿に、いくつかの制限がかかります。用途規制、建ぺい率・容積率、そして高さや形態に関する制限です。それぞれは建築基準法のなかで具体的に整理されていますが、ここでは「何のための制限なのか」という観点から眺めていきます。

1.用途規制 ── 建てられる建物の種類

もっともよく知られている制限が、用途規制です。建築基準法第48条と別表第二によって、用途地域ごとに「建てられる建物・建てられない建物」が整理されています。

たとえば、第一種低層住居専用地域では、戸建て住宅や小規模な兼用住宅、診療所などは認められますが、本格的な店舗やオフィスビル、工場、ホテルなどは建てられません。一方、商業地域では、多くの用途が認められ、住宅や一定の工場も建てられる余地があります。

用途規制を読むときに大切なのは、「禁止のリスト」というよりも、「この地域で想定されている使われ方のリスト」として読むことです。建てられる建物の顔ぶれを見ていくと、その地域がどんな街並みを想定しているのかが浮かび上がってきます。

2.建ぺい率・容積率 ── どのくらいの大きさで建てるか

建ぺい率は、敷地に対する建築面積の割合をいい、容積率は、敷地に対する延べ床面積の割合をいいます。どちらも建築基準法のなかで、用途地域ごとに上限が定められています。

建ぺい率や容積率は、単に「建物の大きさをしばる」ためのものではなく、その地域の街並みの密度をどのくらいに保ちたいか、という都市計画上の方向性を、数字に置き換えたものとして読むことができます。低層住居専用地域は、建ぺい率も容積率も低めに抑えられ、ゆったりとした街並みが想定されます。商業地域は、容積率が大きく取れ、ぎゅっと建物が立ち上がる街並みが想定されます。

容積率については、用途地域に応じて定められる上限(指定容積率)と、敷地に接する道路の幅員に応じた制限(基準容積率)のどちらか厳しいほうが適用される、というかたちで運用されています。

3.高さ・形態に関する制限

用途地域は、建物の高さや形にも影響を与えます。第一種低層住居専用地域・第二種低層住居専用地域・田園住居地域では、建物の絶対的な高さの上限(10mまたは12m)が定められ、低層を前提とした街並みがつくられています。

また、用途地域や前面道路との関係から、道路斜線制限・隣地斜線制限・北側斜線制限といった斜線制限がかかり、日影規制も住居系地域を中心に適用されます。これらは、隣の敷地や反対側の敷地に光や風が届くことを守るための仕組みであり、用途地域とセットで街の形を整えているものとして読めます。

🐿 レコル:「用途地域は、建物の〈中身〉と〈大きさ〉と〈高さ〉の三つを同時に整えているんだね。三つの制限がそろうと、街並みの大枠ができあがってくる感じがするよ。」

4.用途地域がまたがるとき

ひとつの敷地が複数の用途地域にまたがることがあります。この場合の用途制限については、敷地の過半を占める用途地域の制限が適用されると整理されています(建築基準法第91条の整理)。建ぺい率や容積率については、それぞれの面積の比に応じて加重平均で計算されます。

境目に立つ敷地は、どちらの用途地域の性格を強く帯びるのかが微妙になりやすく、街の輪郭がやわらかくつながっていく場所でもあります。

第五章 鑑定評価上の「用途的地域」を読む

── 都市計画法の用途地域との関係

ここからは、不動産鑑定評価のなかで使われる「用途的地域」という言葉に目を移していきます。都市計画法の「用途地域」と、不動産鑑定評価基準の「用途的地域」。名前はとてもよく似ていますが、別の概念です。

1.不動産鑑定評価基準にいう「用途的地域」

不動産鑑定評価基準は、総論第6章「地域分析及び個別分析」のなかで、「地域分析に当たって特に重要な地域は、用途的観点から区分される地域(以下『用途的地域』という。)」と整理しています。そして用途的地域は、対象不動産の属する「近隣地域」と、それに類似する「類似地域」、さらに広域的な「同一需給圏」によって組み立てられる、と説明しています。

用途的地域の手前にあるのが、「地域の種別」という大きな分類です。基準は、地域を宅地地域・農地地域・林地地域などに分け、宅地地域はさらに「住宅地域、商業地域、工業地域等」に細分される、としています。さらに住宅地域、商業地域、工業地域については、規模や構成内容、機能等に応じた細分化が考えられる、と続きます。

つまり鑑定評価上の「用途的地域」は、行政が線を引いた地域ではなく、不動産鑑定士が地域分析を通じて読みとる地域として位置づけられています。

2.近隣地域・類似地域・同一需給圏

用途的地域を支えるキーワードを、もう少し見ていきます。

「近隣地域」は、対象不動産の属する用途的地域であって、より大きな規模と内容とを持つ都市あるいは農村等の内部にあって、人の生活と活動に関して「ある特定の用途に供されることを中心として地域的にまとまりを示している地域」とされています。対象不動産の価格の形成に直接影響を与える、もっとも身近な圏域です。

「類似地域」は、近隣地域の地域の特性と類似する特性を有する地域。同じく「特定の用途に供されることを中心として地域的にまとまりを持つもの」とされ、近隣地域との類似性を前提として判定されます。取引事例比較法などで事例を集めるとき、近隣地域に十分な事例がない場合に、類似地域の事例を活用する、という流れが想定されています。

「同一需給圏」は、対象不動産と代替関係が成立して、その価格の形成について相互に影響を及ぼすような関係にある他の不動産の存する圏域、と整理されます。近隣地域を含んでより広域的であり、類似地域等の存する範囲を規定するもの、とされています。住宅地ではおおむね都心への通勤可能な範囲、高度商業地ではさらに広域、工業地では港湾や高速交通網に支えられた全国的な範囲、というかたちで、用途や規模に応じて広がりが異なる、と読み取れます。

3.都市計画法の用途地域と鑑定評価上の用途的地域は、どう違うのか

二つの言葉の違いを、いくつかの角度から見ていきます。

まず、由来が異なります。都市計画法の「用途地域」は、行政が都市計画として定めた区分で、地図の上に色塗りされた線引きです。鑑定評価上の「用途的地域」は、行政の線引きではなく、不動産鑑定士が現実の利用形態や地域要因を読み取って判断する地域です。

次に、目的が異なります。用途地域は、将来の街の姿を計画するための仕組みです。一方、用途的地域は、対象不動産の価格を分析するための単位として、地域の特性をくみ取るためのものです。

そして、線の引かれ方が異なります。用途地域の境目は、都市計画図のうえに明示されています。用途的地域の境目は、現実の街の中で、街路や河川、地形の変化、利用形態の切り替わりなどから、その都度読み取られていきます。

ただし、二つは無関係というわけではありません。鑑定評価基準は、価格形成要因のうち「行政的要因」として「土地利用に関する計画及び規制の状態」を挙げており、用途地域の指定状況は、その地域の特性を支える行政的要因として、鑑定評価のなかで丁寧に確認されます。用途的地域を判定するときの手がかりのひとつとして、用途地域は重要な参照軸になります。

🐿 レコル:「〈用途地域〉は地図のうえの色塗り。〈用途的地域〉は、その色塗りをひとつの手がかりにしながら、街の実際の使われ方から読みとっていく地域なんだ。似ているけれど、立っている場所がちょっと違うんだね。」

4.なぜ二つを分けて考えるのか

それでは、なぜわざわざ「用途地域」と「用途的地域」を分けて考えるのでしょうか。

ひとつは、街は計画どおりに育つとは限らない、という事実があります。商業地域に指定されていても、実態としてはまだ住宅が中心の地域もあれば、第一種住居地域でも沿道に小さな商店が連なる地域もあります。価格を読むためには、行政の色塗りだけでなく、現実の利用形態にもう一度立ち返る必要があります。

もうひとつは、用途地域は街全体の方向性を示す制度であり、不動産一つひとつの価格を直接決めるためのものではない、という前提です。価格はあくまで個別の不動産について判断されるべきもので、そのために必要な地域の単位を、鑑定評価は独自に組み立てる必要があった、と読むことができます。

用途的地域という概念は、用途地域を否定するものではなく、それを大切な手がかりとしながら、もう一歩、対象不動産のそばまで地域分析を引き寄せるための仕組みである、と整理しておきたいと思います。

あとがき

用途地域を読みなおしていると、ひとつの感想が浮かんできました。

用途地域は、〈いまの建物〉をしばる制度というより、〈これからの街の姿〉を一緒に想像するための言葉なのだ、ということです。13種類の地域はそれぞれ、〈ここではこういう暮らしや働き方を中心にしていこう〉という方向性を、ひとつの名前にまとめたものに見えます。

歴史をたどると、3種類から始まった用途地域は、街の課題に向き合うたびに、少しずつ細やかになってきました。住宅地のなかに事務所ビルが入り込みすぎないように。沿道の業務と住宅をうまく共存させられるように。都市にある農地を、〈いずれ宅地化するもの〉ではなく〈このまま街に残したいもの〉として位置づけられるように。改正のひとつひとつには、その時代に大切にしたかった暮らしの姿が、静かに織り込まれているように見えます。

そして鑑定評価のほうから眺めると、用途地域は「行政的要因」として、価格形成要因のなかに座っています。価格を読むためには、用途地域を一度行政の線引きとして確認したうえで、もう一度、現実の街の使われ方として読みなおす必要があります。その読みなおしの単位が、不動産鑑定評価基準の「用途的地域」でした。

用途地域を覚えるのではなく、用途地域を通じて街を読む。本書がそのきっかけになれば、レコルとしては、とても嬉しく思います。

🐿 レコル:「用途地域は、街へのメッセージみたいなものだと思うんだ。〈ここではこういう時間を流したい〉っていう想いが、街の中に静かに書き込まれているんだよ。13種類を読み終えたあと、もう一度、自分の住んでいる街を歩いてみてほしいな。」

この本の原典

この本は、以下の原典をもとに整理しています。制度や運用は更新されるため、実務で利用する際は最新の原典をご確認ください。

◯ 都市計画法(昭和43年法律第100号)  e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/343AC0000000100

◯ 建築基準法(昭和25年法律第201号)  e-Gov 法令検索 https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201

◯ 国土交通省「みんなで進めるまちづくりの話」用途地域の解説  https://www.mlit.go.jp/common/000234474.pdf

◯ 国土交通省「都市計画法・建築基準法:田園住居地域」  https://www.mlit.go.jp/common/001262095.pdf

◯ 国土交通省 都市局 公園とみどり:田園住居地域  https://www.mlit.go.jp/toshi/park/toshi_city_plan_tk_000042.html

◯ 不動産鑑定評価基準(国土交通省)  https://www.mlit.go.jp/common/001204083.pdf

◯ 不動産鑑定評価基準運用上の留意事項(国土交通省)  https://www.mlit.go.jp/common/001204041.pdf

◯ 国土交通省 不動産鑑定評価関連資料  https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_fr4_000043.html

◯ 公益社団法人 日本不動産鑑定士協会連合会  https://www.fudousan-kanteishi.or.jp/

◯ 国立公文書館「変貌 ─ 38.都市計画法と市街地建築法を制定/49.東京に商業・工業・住居地域等を指定」  https://www.archives.go.jp/exhibition/digital/henbou/

◯ 大阪市「過去の用途地域の概要図」  https://www.city.osaka.lg.jp/toshikeikaku/page/0000650877.html

※リンク先は、改訂時点で確認できたものを掲載しています。

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レコル出版

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