登記を読む
── 土地と建物の記録は、どこに残されているのか
まえがき
ある土地が、誰のものなのか。
どこからどこまでが、その土地の範囲なのか。
そこに建っている建物は、いつ、誰が、どんな目的で建てたのか。
こうしたことを、わたしたちは普段、目に見える「現地」と、見えないかたちで残されている「記録」の両方から確かめています。
不動産にかかわる「記録」が集まる場所が、法務局です。
法務局には、土地と建物の所在・面積・所有者・抵当権など、不動産にまつわるさまざまな情報が、登記記録として残されています。
地図や測量図、建物の図面も、同じ場所に並べられています。
ただ、ここでひとつ気をつけておきたいことがあります。
登記や図面類は、不動産の権利や姿を「示してくれる手がかり」ではあっても、いつも現況と一致しているとは限らない、ということです。
登記簿に書かれた地積(面積)と、実際に測ってみた面積が違うこともあれば、地図上の形と現地の形が大きくずれていることもあります。
そのため、登記を読むときには、「これが絶対の正解」とは構えずに、「ここに、こういう記録が残されている」という距離感で向き合うほうが、流れがつかみやすいように思います。
この本では、
- 登記を読むと、なにがわかるのか
- 法務局にはどんな資料が並べられているのか
- その資料は、どう取り寄せることができるのか
- 登記と現況のあいだを、実務ではどう照らし合わせていくのか
という流れで、ゆっくり整理していきます。
🐿 レコル:「登記を読む」というのはね、土地や建物の戸籍簿みたいなものを、そっとめくってみる作業なんだ。書かれていることと、書かれていないこと。両方に目をやりながら、不動産の輪郭を確かめていくよ。
第一章 登記を読むと、なにがわかるのか
登記という仕組み
登記は、土地や建物の物理的な姿と、それに関する権利の状態を、公の帳簿に書き残しておく仕組みです。
法務省の案内では、不動産登記は「土地や建物の所在・面積のほか、所有者の住所・氏名などを公の帳簿(登記簿)に記載し、これを一般公開することにより、権利関係などの状況が誰にでもわかるようにし、取引の安全と円滑をはかる」役割を持つもの、と説明されています。
ここで大切なのは、登記が「みんなが見られる帳簿」として整えられている、という点だと思います。
不動産は、動かすことができず、しかも価格が大きい財産です。誰が持っているのか、抵当に入っていないか、面積はどれくらいなのか。こうした情報を、当事者だけが知っている状態にしておくと、取引のたびに大きな不安が残ります。
登記は、その不安をやわらげるために、不動産の「いま」と「これまで」を、誰でも確かめられる場所に置いておく仕組みとも読めそうです。
登記を読むとわかること、わからないこと
登記を読むと、たとえば次のようなことが見えてきます。
- 土地が、どこに、どのくらいの広さで存在していることになっているか
- 建物が、いつ建てられ、どんな構造で、どれくらいの床面積を持つことになっているか
- いま、その不動産の所有者として登記されているのは誰か
- いつ、どんな原因(売買・相続・贈与など)で所有権が移転してきたか
- 抵当権や地上権など、所有権以外の権利がついているか
一方で、登記からは見えにくいこともあります。
- 現地のいまの利用状況(畑として使われているか、駐車場になっているか、など)
- 建物の老朽度や室内の状態
- 近隣との実際の境界の位置(合意があるか、争いがあるか)
- 登記されていない増築や、未登記の建物の存在
- 賃貸借契約の細かな内容(賃料、期間、特約など)
登記は、不動産の姿をかなり広く映し出してくれる一方で、「現地で起きていること」のすべてを書き残しているわけではない、と読めそうです。
🐿 レコル:登記は、不動産の履歴書みたいなもの。だけど、本人に会ってみないとわからないこともたくさんあるよ。だからこそ、現地と資料の両方が大切なんだね。
第二章 法務局という場所
法務局とは
法務局は、法務省の地方組織のひとつで、登記、戸籍、国籍、供託、人権擁護、訟務など、暮らしや権利にかかわる仕事をあわせて担っている役所です。
不動産に関する文脈では、「登記所」という呼び方をされることもあります。地域によって、法務局・地方法務局・支局・出張所と段階的に配置されていて、不動産の所在地ごとに管轄する登記所が決められています。
法務局が守ろうとしていること
法務局の役割を一次資料で読んでいくと、登記制度のねらいとして繰り返し書かれているのが、「取引の安全と円滑」という言葉です。
不動産の権利関係を、誰もが同じ場所で確かめられるようにしておくこと。そうすることで、取引の場面でも、相続や担保の場面でも、当事者がいきなり不安にさらされずに済む。法務局という場所は、そうした「確かめられる場所」を、日本のあちこちに静かに整えてきた組織と読めそうです。
登記制度は、明治以降にかたちを整えはじめ、現在は、不動産登記法(平成16年法律第123号)と、その施行令・施行規則によって運用されています。
近年では、所有者不明土地問題への対応として、相続登記の申請が義務化されるなど(2024年4月1日施行)、登記制度の役割そのものが、少しずつ更新されている時期でもあります。
🐿 レコル:法務局はね、不動産の権利を守るための土台みたいな場所なんだ。みんなが安心して取引できるように、こつこつ記録を残しているよ。
第三章 登記事項証明書を読む
登記事項証明書とは
登記事項証明書は、登記記録に記載されている内容を、法務局が証明書のかたちで発行したものです。
以前は「登記簿謄本」と呼ばれ、紙の帳簿の写しを取ることが一般的でした。現在の登記記録は、ほぼ電子化されており、データから印字された書面に登記官の認証文と公印が押されたかたちで交付されます。呼び方の名残として「謄本」という言葉が使われることもありますが、内容としては登記事項証明書のことを指している場合が多いようです。
証明書の種類
不動産の登記事項証明書には、主に次のような種類があります。
- 全部事項証明書 ── 現在の記録と、過去の記録のすべて(閉鎖されていないもの)が記載されたもの
- 現在事項証明書 ── 現在効力を持っている記録だけが記載されたもの
- 一部事項証明書 ── 甲区や乙区の順位番号を指定して、その部分だけを抜き出したもの
- 閉鎖事項証明書 ── 閉鎖された登記記録(過去に閉じられた記録)を証明するもの
実務では、過去の所有権の移転の経緯まで読みたい場面が多いため、全部事項証明書が選ばれることが多い、と整理されています。
登記記録の構成 ── 表題部と権利部
不動産の登記記録は、土地は一筆ごと、建物は一個ごとに作られています。
そのなかは、大きく次の三つに分かれています。
表題部 ── 不動産の物理的な姿
土地の表題部には、所在、地番、地目(宅地・田・畑・山林などの土地の現況による分類)、地積(土地の面積)などが記録されます。
建物の表題部には、所在、家屋番号、種類(居宅・店舗・事務所など)、構造(木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造など)、床面積、建築年月日などが記録されます。
表題部は、不動産の「物としての姿」を写しとる部分で、その整備は土地家屋調査士が中心的に担うことが多い領域です。
権利部(甲区)── 所有権の動き
甲区には、所有権に関する事項が記録されます。
いつ、誰から誰へ、どのような原因(売買・相続・贈与・遺贈など)で所有権が移ったのかが、順位番号とともに並んでいきます。差押えや仮登記が入る場合も、ここに記録されます。
権利部(乙区)── 所有権以外の権利
乙区には、抵当権、根抵当権、賃借権、地上権、地役権など、所有権以外の権利に関する事項が記録されます。
住宅ローンを組んでいる住宅であれば、ここに金融機関名や債権額、利息の定めなどが記載されているはずです。
登記事項証明書から確認できること、できないこと
登記事項証明書を読むと、不動産の「公的に登記された姿」がひと通り見えてきます。
読める内容としては、たとえば次のようなものがあります。
- 登記上の所在・地番・家屋番号
- 登記上の地積・床面積
- 地目・建物の種類・構造
- 現所有者の氏名・住所
- 所有権の取得経緯(原因と日付)
- 抵当権など、所有権以外の権利の有無
一方で、次のような事柄は、登記事項証明書だけでは読みきれないことが多いと言われています。
- 現地のいまの利用状況(登記上の地目が「畑」でも、実際は資材置き場になっていることがあります)
- 登記されていない増築部分や、未登記建物の存在
- 近隣との境界の合意状況
- 賃貸借契約の細かな条件
- 建物の老朽度や、内部の状況
- 🐿 レコル:登記事項証明書は、不動産の履歴書のような存在。読めることはとても多いけれど、実際に会ってみないとわからないことが多い、と思いながら読むのがちょうどよさそうだよ。
第四章 公図と地図を読む
二つの「地図」
法務局には、土地の位置や形状を示す図面として、大きく分けて二種類の「地図」が備え付けられています。
- 不動産登記法第14条第1項に基づく「地図」(いわゆる14条地図)
- 地図が備え付けられるまでのあいだに代わりに置かれる「地図に準ずる図面」(一般に「公図」と呼ばれる図面)
実務では、両者をあわせて「公図」と呼ぶこともあり、ここは少し言葉づかいが混ざりやすい部分です。
14条地図 ── 現地復元能力を持つ地図
14条地図は、不動産登記法第14条第1項に基づき、各筆界点の位置を平面直角座標系の座標で表し、一定の精度を満たす測量に基づいて作成された地図です。
特徴として大切なのは、「現地復元能力」を持つこと、と整理されています。これは、何らかの理由で現地の境界杭が失われても、地図のデータから境界の位置を再現できる、ということです。
ただ、14条地図の整備は、地籍調査の進み方と関わっていて、全国的にはまだ整備の途上にあるとされます。とくに都市部の人口集中地区(DID)では、地籍調査の進捗率がほかの地域に比べて低い傾向があると報告されています。
地図に準ずる図面(公図)── 明治期の地租改正にさかのぼる図面
14条地図がまだ備えつけられていない地域では、「地図に準ずる図面」が置かれています。これが、一般に「公図」と呼ばれる図面です。
ルーツの多くは、明治時代の地租改正のときに作られた図面(旧土地台帳付属地図など)にさかのぼると言われています。当時の測量技術では、現代のような精度を出すことは難しく、形や面積が現況と合わないことも珍しくありません。
そのため、公図は「位置関係や、隣接する土地との並びを大まかに確かめるための図面」として読むのが、流れとしてなじみやすいように思います。
公図・地図から確認できること、できないこと
公図や14条地図を読むことで、見えてくるのは、たとえば次のような点です。
- 対象の土地が、どの地番に、どんな形で存在することになっているか
- 隣接している土地との位置関係(並び、接道のおおまかな様子)
- 水路や里道(青線・赤線)など、公図上に表現される地物の有無
一方で、次のようなことは、公図だけからは読みきれないとされます。
- 筆界(法律上の境界)の正確な座標位置
- 実際の境界標の位置
- 現地の地形や高低差
- 正確な面積(とくに地図に準ずる図面の場合)
- 🐿 レコル:公図は、明治時代に作られたものが今でも下敷きになっている地域もあるんだって。100年以上前の図面をもとにした情報が、今も現役で使われている。資料の背景まで知ると、登記の世界の奥行きが少し見えてくるよ。
第五章 地積測量図を読む
地積測量図とは
地積測量図は、一筆の土地について行われた測量の結果を、図面として残したものです。
土地の面積や、その計算方法、土地の形状、隣接地との位置関係、境界標の種類や位置などが描かれています。多くの場合、土地所在図と地積測量図が一枚にまとまっています。
いつ作られる図面なのか
地積測量図は、すべての土地について備えられているわけではありません。
一般に、次のような場面で新しく作成され、法務局に備え付けられるとされています。
- 土地の分筆登記(一筆の土地を複数に分ける登記)が行われたとき
- 地積更正登記(登記簿上の地積を実測値に合わせて修正する登記)が行われたとき
- 一定の表題登記や合筆登記が行われたとき
そのため、登記の動きが少なかった土地では、新しい地積測量図がそもそも備えられていないこともあります。古い分筆時の地積測量図しか存在しない、というケースも珍しくないようです。
地積測量図から確認できること、できないこと
地積測量図からは、たとえば次のようなことが読み取れます。
- 登記上の土地の形状と、隣接地との位置関係
- 辺長(土地の各辺の長さ)と、求積の計算過程
- 境界標(金属標、コンクリート杭、プラスチック杭など)の種類と位置
- 測量の基準点や方位
一方で、次のようなことは、地積測量図だけからは読みきれないとされます。
- 現地の境界標が、いまも図面どおりに残っているか
- 作成後に行われた境界変更や、塀の越境などの状況
- 古い時代の地積測量図の場合、現在の測量精度との差
古い地積測量図と、新しい地積測量図とでは、求積の方法や測量基準そのものが異なることもあります。年代を確かめながら読むと、その図面の信頼度の幅が少し見えやすくなるように思います。
🐿 レコル:地積測量図は、土地の「測られたときの記録」。いつ測ったかによって、精度も使われ方もちょっと違ってくるよ。日付を見るのが、意外と大事な読み方かもしれないね。
第六章 建物図面・各階平面図を読む
建物図面・各階平面図とは
建物図面は、敷地のなかで建物がどの位置に建っているかを表す図面です。
各階平面図は、建物の各階ごとの形状と、登記上の床面積を算出する計算式が表された図面です。
実務では、建物図面と各階平面図が一枚にまとめられて備え付けられている場合が多いようです。
いつ作られる図面なのか
これらの図面は、建物の表題登記(新築時の初めての登記)や、増築・滅失・種類変更などの登記が行われたときに、申請の添付書類として作成され、法務局に備え付けられます。
古くから存在する建物のなかには、こうした図面が備え付けられていないものもあります。建物登記が表示されていても、図面がまだ整っていないケースが残されている、と整理されています。
建物図面・各階平面図から確認できること、できないこと
これらの図面からは、たとえば次のようなことが読み取れます。
- 敷地と建物の位置関係(建物が敷地のどこに建てられているか)
- 各階の形状とおおまかな間取り(壁の位置や張り出し)
- 床面積の算出方法(求積の式)
一方で、次のような点は、これらの図面だけからは読みきれないとされます。
- 建築後の増築や減築の状況(登記されていない変更)
- 内部の細かな間取り、設備の配置
- 建物の老朽度合いや構造の現況
- 敷地と道路との詳細な位置関係(接道の幅員など)
また、登記上の床面積は、不動産登記規則で定められた測り方(一般建物は壁の中心線(壁芯)で、区分建物(マンション等)は壁の内側線(内法)で算出するなど、建物種類により計算ルールが異なります)で算出されています。建築基準法上の床面積や、固定資産税の課税床面積とは、必ずしも一致しないことがあります。
🐿 レコル:登記上の床面積、固定資産税の床面積、建築基準法の床面積。同じ「床面積」という言葉でも、ものさしが少しずつ違うんだ。どのものさしで測られた数字なのか、確かめておくと混乱しにくいよ。
第七章 閉鎖登記簿を読む
閉鎖された登記とは
登記記録のなかには、いまは効力を持たなくなって、「閉鎖」された状態で保管されているものがあります。
たとえば、土地が合筆されて一つにまとめられたとき、もとの登記記録は閉鎖されます。建物が取り壊されて滅失登記が行われたときも、もとの建物の登記記録は閉鎖されます。
また、不動産登記がコンピュータ化されたとき、それまでの紙の登記簿の内容は新しいコンピュータの登記記録に移し替えられ、移し替え元の紙の登記簿は閉鎖された、という経緯もあります。
閉鎖事項証明書と閉鎖登記簿謄本
閉鎖された登記には、主に次の二種類の写しが残されています。
閉鎖事項証明書
コンピュータ化以降に閉鎖された登記記録について、データから印字された証明書です。
管轄の法務局でなくても、全国のどの登記所からでも、窓口・郵送・オンラインのいずれの方法でも請求できます。
閉鎖登記簿謄本
コンピュータ化される前の、紙の閉鎖登記簿の写しです。
紙の閉鎖登記簿は、管轄の法務局で保管されているため、管轄の法務局に対してのみ請求できます(管轄外の法務局では取得できません)。請求方法は、管轄法務局の窓口での申請のほか、管轄法務局への郵送による請求も可能です。
また、紙の閉鎖登記簿はオンライン請求の対象外です。ただし、一部の法務局では紙の閉鎖登記簿の電子化が進められており、電子化が完了した記録は閉鎖事項証明書として管理され直し、全国の登記所からの請求・オンライン請求が可能になります。
閉鎖登記簿を読むと見えてくること
閉鎖された記録を読むと、その不動産の「いまに至るまでの物語」が少しずつ見えてきます。
- いつごろ、どんな所有者の手を経て、いまの所有者にたどり着いたのか
- もともとは複数の筆だった土地が、合筆されて一筆になっているのか
- 以前は別の建物が建っていた敷地なのか
- 古い抵当権の経緯や、過去の差押えの履歴
ただし、古い記録ほど読みづらく、登記の用語や書式も時代によって異なります。閉鎖登記簿を読むことは、不動産の過去をたどるうえで大切な手がかりではあるものの、解読には時間がかかることが多いようです。
🐿 レコル:閉鎖登記簿は、不動産の「むかしのアルバム」。今の姿だけでは見えてこない経緯が、ここに静かに残されていることがあるよ。
第八章 資料の取り寄せ方
三つのルート
法務局の資料には、大きく三つの取り寄せ方があります。
- 法務局の窓口で請求する
- 登記・供託オンライン申請システムで請求し、書面(証明書)を窓口や郵送で受け取る
- 登記情報提供サービスで、データ(PDF)として閲覧する
これらは、得られる「もの」の性質が少しずつ違います。
法務局窓口での請求
もっとも基本的な方法は、法務局の窓口で請求書を提出することです。
登記事項証明書、地図・図面類など、書面の証明書として交付されます。登記官の認証文と公印が付いているため、提出先で「公的な証明書」として扱われるかたちのものです。
登記事項証明書は、原則として、不動産の管轄に関係なく、全国どこの法務局からでも請求できるとされています(紙のみで保管されている閉鎖登記簿などの一部の資料を除く)。
オンライン請求 ── 登記・供託オンライン申請システム
法務省が運営する「登記・供託オンライン申請システム(かんたん証明書請求)」を使うと、自宅や事務所のパソコンから、登記事項証明書などを請求できます。
受け取り方は、郵送と窓口受領のいずれかを選ぶかたちです。
窓口請求に比べると、手数料が少し抑えられているのが一般的で、登記事項証明書は、窓口請求が1通600円のところ、オンライン請求では郵送受け取りで500円、窓口受け取りで480円という料金体系で運用されています(手数料額は法令の改正により変更されることがあります。最新の額は法務省の手数料一覧でご確認ください)。
ここで得られるものは、紙の証明書としての登記事項証明書であり、認証文と公印付きのものになります。
登記情報提供サービス ── 「閲覧」をオンラインで
「登記情報提供サービス」は、一般財団法人民事法務協会が、電気通信回線による登記情報の提供に関する法律に基づく指定法人として運営しているサービスです。
インターネットを通じて、登記所が保有する登記情報をPDFのかたちで確認することができます。利用の前に登録が必要ですが、一時利用の制度も用意されています。
ここで気をつけたいのは、登記情報提供サービスで得られるPDFは、登記事項を「閲覧」したかたちにあたる、という点です。登記官の認証文や公印は付かず、公的な証明書としての効力は持たないと整理されています。
そのため、内容の確認や、社内資料・調査の下書きとしては使えても、提出先から「証明書」として求められる場面では使えないことが多くなります。
料金は、登記事項の閲覧で一件あたりおおむね数百円という水準で運用されており、書面の証明書よりも手数料が低めに設定されています(料金は変更されることがあるため、利用時には公式案内をご確認ください)。
三つのルートをどう使い分けるか
それぞれの位置づけを、いったん整理しておきます。
- 窓口請求 ── 公的証明力のある書面が必要なとき。閉鎖登記簿の一部など、オンラインで取得できない資料があるときも有力なルートです。
- オンライン請求(登記・供託オンライン申請システム)── 公的証明書が必要だが、窓口に行く手間を抑えたいとき。
- 登記情報提供サービス ── 内容の確認や、調査用のメモとして登記情報を読みたいとき。公的証明書としての効力は持たない点を踏まえての利用です。
評価実務では、登記情報提供サービスで内容を確認することが多いようです。
🐿 レコル:「証明書」と「閲覧」は別ものなんだ。提出する書類なのか、確認するだけの資料なのか、ここを見極めると、どのルートで取ればいいかが見えてくるよ。
第九章 登記と現況のあいだ ── 手がかりとしての登記
登記は「正解」ではなく「手がかり」
ここまで読んできたとおり、登記事項証明書も、公図も、地積測量図も、建物図面も、それぞれが不動産の姿を映し出す貴重な資料です。
ただ、それらは「ある時点での記録」であり、その後の現況の変化までを追いかけられているわけではありません。
たとえば、こんなずれが残っていることがあります。
- 登記上の地目は「畑」だが、実際は資材置き場として使われている
- 登記上の地積(公簿面積)と、実測面積が異なる(縄伸び・縄縮みと呼ばれる現象です)
- 公図の形状と、現地の形状が大きく違う
- 登記されていない増築部分が、現地には存在する
- 登記された建物が、すでに取り壊されているが、滅失登記が未了
そのため、登記の資料は、「不動産の現実そのもの」ではなく、「現実を確かめていくための手がかり」として位置づけて読むほうが、流れがつかみやすいように思います。
不動産鑑定評価における対象不動産の確認
不動産鑑定評価基準では、価格を求める前の段階で、対象不動産の確認という工程が置かれています。
ここでは、対象不動産が現実にどのような状態で存在しているかを、実地調査、聴聞、公的資料などを通じて確かめるとされ、これは「物的確認」と「権利の態様の確認」のふたつに分けられます。
- 物的確認 ── 土地については、所在・地番・地目・地積・形状・境界・定着物の有無などを確認します。建物については、所在・家屋番号・構造・用途・床面積などを確認します。
- 権利の態様の確認 ── 所有権、賃借権、地上権、抵当権などの権利関係を確認します。
これらの確認のなかで、登記事項証明書や図面類は中心的な公的資料として使われますが、それだけで完結するわけではなく、実地調査や、必要に応じて測量図、契約書、各種図面、聴き取りといった情報と照らし合わせていく流れになります。
実務での照合の視点
実務では、次のような照合が日々行われていると整理されています。
- 登記上の地積と、確定測量図・実測図の数値
- 登記上の地目と、現地の利用状況
- 公図の形状と、現地・測量図の形状
- 登記された建物と、現地に存在する建物(増築・滅失の状況を含む)
- 登記された権利関係と、賃貸借契約書・覚書などの契約書類
こうした照合の積み重ねによって、登記の手がかりは、不動産の現実に少しずつ重ね合わされていきます。
登記が古いまま放置されているケースもあれば、現地が変わったのに登記が追いついていないケースもあります。その差をどう読むかが、登記を「正解そのもの」ではなく「手がかり」として扱う、ということなのだろうと思います。
🐿 レコル:登記は、不動産の姿をたどるための手がかりなんだ。でも、記録だけでは見えてこないこともある。現地や図面と照らし合わせながら見ていくと、不動産の輪郭が少しずつ立ち上がってくるよ。
あとがき
登記を読むという作業は、土地と建物のこれまでの記録に、そっと触れる作業でもあります。
そこには、いまの所有者だけでなく、過去にその不動産にかかわった人たちの名前や、行われた取引の経緯、設定された権利の名残が、静かに並んでいます。
近年、所有者不明土地の問題への対応として、相続登記の申請が義務化されるなど、登記制度の役割そのものが、少しずつ更新されています。
登記が「個人の取引のため」だけではなく、「社会全体で土地を引き継いでいくため」の仕組みとしても読み直されはじめている時期、と言えるかもしれません。
この本では、登記事項証明書、公図、地積測量図、建物図面、閉鎖登記簿、そして取り寄せ方の違いまでをひとつの流れとして整理してみました。
入口としての読み方が、少しでも見えやすくなっていたら、レコルはうれしく思います。
登記の資料は更新されていくものなので、実際に使う場面では、必ず最新の登記事項を取り直し、現地と照らし合わせていくことが、いちばん着実な読み方になるように思います。
🐿 レコル:夜の森図書館の棚に、また一冊。登記の世界は奥が深いけれど、まずは「手がかりとして読む」というところから、ゆっくり入っていけば大丈夫だよ。
レコル出版 夜の森図書館にて
この本の原典
この本は、以下の原典をもとに整理しています。
制度や運用は更新されるため、実務で利用する際は最新の原典をご確認ください。
・ 不動産登記法(e-Gov 法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
・ 不動産登記規則(e-Gov 法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
・ 法務省 不動産登記のABChttps://www.moj.go.jp/MINJI/minji02.html
・ 法務局 不動産登記https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/goannai_index_fudousan.html
・ 法務局 登記事項証明書(土地・建物)、地図・図面証明書を取得したい方https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/shomeisho_000001.html
・ 法務局 登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利ですhttps://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/online_syoumei_annai.html
・ 法務省 登記手数料についてhttps://www.moj.go.jp/MINJI/TESURYO/
・ 法務省 不動産登記の電子申請(オンライン申請)についてhttps://www.moj.go.jp/MINJI/minji72.html
・ 法務省 相続登記の申請義務化についてhttps://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html
・ 一般財団法人 民事法務協会 登記情報提供サービスhttps://www.minji-houmu.jp/tohki_jyoho/tohki_jyoho.html
・ 国土交通省 不動産鑑定評価基準https://www.mlit.go.jp/common/001204083.pdf
・ 国土交通省 不動産鑑定評価基準運用上の留意事項https://www.mlit.go.jp/common/001204077.pdf
・ 国土交通省 土地・不動産・建設業:法令・不動産鑑定評価基準等https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk4_000024.html
・ 国土交通省 不動産鑑定評価ポータルサイトhttps://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk4_000023.html
・ 公益社団法人 日本不動産鑑定士協会連合会https://www.fudousan-kanteishi.or.jp/
※リンク先は、執筆時点で確認できたものを掲載しています。
発行 レコル出版
寄贈先 夜の森図書館
レコル出版では、外の世界にある制度や資料を、
夜の森の中で静かに読み直し、本の形にしています。