実務の森|修繕積立金の「相場」と積立不足──積立金が安いマンションは、得なの?
毎月の安さの裏側
モーリーとニャッタは、森の奥にある古い集合住宅の前を通りかかった。壁には、これからはじまる修繕工事の予定が、静かに貼り出されている。
ねえモーリー。このおうち、毎月の修繕積立金がすごく安いって聞いたよ。お得なのかな?
うん、そう見えるかもしれないね。でも“安い”の理由は、いくつかあるんだ。理由がわかると、見え方がすこし変わってくるよ。
今回は、そんな修繕積立金の「相場」と「積立不足」について、モーリーたちと見ていこう──。
「安い=お得」と決めてしまう前に、そのお金が何のために積み立てられているのかを、ゆっくりたどっていきたい。
1.修繕積立金って、何のためのお金?
🐈ニャッタ:「そもそも、毎月積み立てるお金って、何に使うの?」
🦉モーリー:「マンションの“みんなで使う場所”を、直していくためのお金だよ。」
マンションには、自分の部屋(専有部分)のほかに、外壁・屋根・廊下・エレベーター・共用部分の給排水管といった、住む人みんなで管理する場所がある。これを共用部分と呼ぶ。
国土交通省のガイドラインでも、修繕積立金は「共用部分について管理組合が行う修繕工事の費用に充てるための積立金」と整理されていて、自分の部屋のリフォーム費用は、原則ここには含まれない。
🦉モーリー:「共用部分の大きな工事は、一般に十数年ごとなど、長い周期でまとまった出費になる。そのときに一度に集めるのは大変だから、長い時間をかけて少しずつ準備しておく。それが修繕積立金なんだ。」
💡 モーリーのフクロウメモ
マンションの管理組合に毎月支払うお金には、ほかにも「管理費」もある。管理費は主に日常の管理や小規模な補修に、修繕積立金は主に将来の計画的な大規模修繕に使われる、というように向きあう時間が違う。ここでは、将来に備える修繕積立金の話をしているんだ。
2.修繕積立金に「相場」ってあるの?
🐈ニャッタ:「いくらくらいが普通、っていう目安はあるの?」
🦉モーリー:「マンションによって必要な額は変わるから、“はっきりした金額”はないけれど、参考になる目安は公表されているよ」
国土交通省の「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(令和6年6月改定)では、実際に作られた長期修繕計画を集めて、専有面積1㎡あたり・1か月あたりの目安が示されているよ。
たとえば20階未満で建築延床面積5,000㎡未満のマンションなら、平均はおよそ335円/㎡・月、事例の3分の2はおよそ235〜430円/㎡・月の幅に収まる、というような情報が得られるんだ。
ここで気をつけたいのは、この目安が「いま徴収されている月額そのもの」ではない、ということ。長期修繕計画の計画期間全体で必要になる金額を、1㎡・1か月あたりにならして平均した数字だ。
しかも、この表は機械式駐車場の分を除いた金額だ。機械式駐車場があるマンションでは、原則として種類や台数に応じた額も考慮する必要がある。ただし、駐車場使用料収入で機械式駐車場の修繕費を賄う計画になっている場合などは、別途の加算が不要なこともある。
🦉モーリー:「仮に70㎡の部屋で平均335円なら、335×70で、計画全体をならすと月に約23,450円(およそ2.3万円)。建物の規模や階数、機械式駐車場の有無で目安は変わってくるから、あくまで目安として見るのがいいね」
ガイドラインでも、実際の額がこの幅に収まっていないからといって、それだけで不適切だと判断されるわけではない、とされています。
建物の形・立地・設備によって必要な工事は違うため、相場はあくまで出発点で、最後はそのマンションの計画次第になる。
📝 ポイントまとめ
- 目安は「㎡あたり月額」で示される
- ただし「現在の月額」ではなく、計画期間全体をならした平均額
- 表の金額は機械式駐車場分を除いたもの(ある場合は原則加算。ただし駐車場使用料収入で賄う場合などは加算不要のことも)
- 平均値だけでなく「事例の3分の2が収まる幅」もセットで見る
- 幅から外れていても、即「おかしい」ではない。計画の中身を確かめる手がかりにする
3.修繕積立金が「安い」マンションで確認したいこと
🐈ニャッタ:「同じくらいの大きさなのに、毎月の修繕積立金が安いところと高いところがあるのはどうして?」
🦉モーリー:「修繕に必要な額がだいたい同じでも“集め方”が違うんだよ。」
代表的な積立方法には、必要な総額を計画期間でならして毎月ほぼ一定額を積み立てる均等積立方式と、最初は低めに設定して数年ごとに段階的に値上げしていく段階増額積立方式がある。このほか、購入時にまとまった基金(修繕積立基金)を徴収したり、修繕時に一時金を集めたり、金融機関からの借入れを前提とする方法もある。
🦉モーリー:「新築の販売時に“毎月の積立額が安い”と感じる場合、段階増額積立方式で当初の額が低めに設定されていることがあるんだ。安く見えるけれど、将来の値上げを前提にしている、ということだね」
国土交通省は、将来にわたって安定して積み立てる観点からは均等積立方式が望ましい、としている。令和6年の改定では、段階増額の場合でも、初期額は均等にした場合の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内に収める、という引き上げ方の目安も示された。
💡 モーリーのフクロウメモ
「いま安い」から「ずっと安い」とは限らないんだ。毎月の数字を見るときは、それが均等積立なのか、これから上がっていくのかを、あわせて確かめておこう。
なお、均等積立方式であっても“ずっと同じ”とは限らない。工事費の高騰や長期修繕計画の見直しによって、将来の値上げが必要になる場合もあるんだ。
4.「積立金が安い=得」じゃないの?
🐈ニャッタ:「でも、安いほうが払うお金は少ないんでしょ?やっぱりお得なんじゃ……」
🦉モーリー:「短期目線で見ればそうかもしれない。でも、長期的に建物を維持するには、修繕工事に必要なお金を確保する必要があるんだ。」
ここで出てくるのが、積立不足という言葉。必要な工事費に対し、積み立てが足りない状態のことだ。ガイドラインでも、当初の月額が著しく低く設定されたり、2回目・3回目の大規模修繕に向けた計画の見直しが行われなかったりして、いざというときに費用が足りなくなる例が指摘されている。
🦉モーリー:「近ごろは工事の人件費(労務費)などが上がっていて、昔の計画のままだと、想定より工事費がふくらむこともある。だから“見直し”がとても大事なんだ。」
つまり、毎月の積立金が安いことは、「建物の規模や設備の違いで必要な工事費が比較的少ないから」かもしれないし、「これから値上げされる前提だから」かもしれないし、「必要な額に届いていないから」かもしれない。理由によって意味がまったく違う。だから「安い=得」とも「安い=危ない」とも言いきれない。
🐈ニャッタ:「“安い”だけでは、得かどうかはわからないんだね。」
🦉モーリー:「そう。数字そのものより、その数字で将来の工事を支えられるかを見ていくんだ。」
購入時の金額が将来も続くとは限らない。長期修繕計画や積立方式もあわせて見ておきたい。
📝 月額だけではわからない──あわせて確かめたいこと
毎月の積立額だけでは、積立不足かどうかは判断できない。可能なら、次のような点もあわせて確認しておくと安心だ。
- 長期修繕計画の最終更新日(いつ見直されたか)
- 現在の修繕積立金の残高
- 将来の収支予測(不足が見込まれていないか)
- 値上げや一時金徴収の予定の有無
- 修繕積立金の滞納状況
- 過去の修繕工事の実績
5.足りないとき、どうなるの?
🐈ニャッタ:「もし工事のお金が足りなかったら、どうするの?」
🦉モーリー:「いくつか道があるけれど、どれも住む人の負担や合意とつながっているんだ。」
足りない分を補う方法としては、工事のときに一時金をまとめて集める、毎月の積立金を値上げする、あるいは管理組合として金融機関から借り入れる、といったやり方がある。借入については、住宅金融支援機構の共用部分リフォーム融資のような、管理組合向けの仕組みも用意されている。
🦉モーリー:「ただ、どの方法も、一般に総会での決議などを通じた区分所有者の合意形成が必要になるんだ。値上げや一時金の徴収は、合意形成が進まなければ、必要な積立金を確保できないこともある。そこが、修繕積立金のいちばん難しいところなんだ」
🦉モーリー:「だから“管理が行き届いているか”は、現在の建物の見た目の話だけじゃないんだ。積立額から修繕計画の実現可能性をみる必要がある。だから、毎月の積立額は、価格を考えるときの、静かな手がかりのひとつなんだよ。」
モーリーのまとめ
✅ 修繕積立金は、共用部分の将来の工事に備えるお金(自分の部屋のリフォーム費用は原則含まない)
✅ 国交省ガイドラインに「㎡あたり月額」の目安があるが、これは計画期間全体の平均額で、機械式駐車場分は別(平均値と「3分の2が収まる幅」がある)
✅ 「最初が安い」場合、段階増額積立方式(将来の値上げ前提)の可能性がある
✅ 「安い=得」とは限らない。安さの理由(工事費用が少なくてすむ/値上げ前提/積立不足)で意味が変わる
✅ 月額だけでは積立不足は判断できない。長期修繕計画の更新日・残高・収支予測などもあわせて確認する
✅ 足りないときは一時金・値上げ・借入などがあるが、いずれも総会での決議などを通じた合意形成が前提
参考にした原典
国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月/令和6年6月改定)