実務の森

実務の森|長期修繕計画って、誰が作るの?──計画はどう作られ、どう見直される?

モーリー

“30年先までを見通す計画”

モーリーとニャッタは、夜の森の外れにある月見マンションにやってきた。掲示板に、「長期修繕計画の見直し」についてのお知らせが貼ってある。

🐈ニャッタ:モーリー、これ、すごく分厚いね。向こう三十年の計画が書いてあるよ。こんなに先のことまで、いったい誰が作ってるの?

🦉モーリー:いい問いだね。これは長期修繕計画。これからの三十年で、マンションのどこをどう直していくか、計画したものなんだ。

今回は、長期修繕計画を誰が、どんなふうに作り、それが不動産の価格を考える手がかりになるのかを、モーリーたちと一緒にたどっていこう──。

1. 長期修繕計画ってなに?

🐈ニャッタ:そもそも、長期修繕計画って何の計画なの?

🦉モーリー:建物は、年月とともに少しずつ傷んでいく。外壁、屋上の防水、給排水管、エレベーター……どれも、ある時期がくると、直したり取り替えたりが必要になる。その「いつ・どこを・どれくらいの費用で」を、長い目で並べたのが長期修繕計画なんだ。

国土交通省は、この計画づくりの手引きとして「長期修繕計画作成ガイドライン」と、そのひな型である「標準様式」を公表している。最初に作られたのは平成二十年。いまの最新版は、令和六年六月に改定されたものだ。直す時期や費用を、その場しのぎで考えるのではなく、あらかじめ見通して備えるための計画なんだ。

2. 誰が作るの?

🐈ニャッタ:それで、最初の疑問。これって、誰が作ってるの?管理会社さん?

🦉モーリー:実は、最初に作る人と、育てていく人は少し違うんだ。

🦉モーリー:新築で分譲されるときは、最初の計画案はふつう分譲会社が用意する。でも、そのあと見直して育てていくのは管理組合なんだ。

🐈ニャッタ:管理組合って、管理会社さんのこと?

🦉モーリー:そう思うよね。でも、この建物の主人公は管理会社じゃない。その建物を持っている区分所有者みんななんだ。

🐈ニャッタ:じゃあ、町内会みたいに、みんなで話し合って決めるんだ。

🦉モーリー:うん。ただし、建物の未来と、大きなお金を扱うから、専門家の力も借りながら進めていくんだよ。

新築で分譲されるとき、最初の計画案は、ふつう分譲会社(売主)が用意します。ただし、案を作っただけで確定するわけではありません。分譲会社は購入予定者に計画案の内容を説明し、理解を得るよう努めます。引渡し後は、必要に応じて管理組合の総会(設立総会)で決議される、という流れをたどります。

そして、その後に計画を見直し、変えていく主体が管理組合。

つまり、その建物を持っている区分所有者の集まりです。マンション標準管理規約では、長期修繕計画の作成・変更は管理組合の業務とされ、その内容は総会で決議することとされています。ただし、標準管理規約は法令ではなく「ひな型」なので、実際にどう定めるかは、各マンションの管理規約によります。

🐈ニャッタ:でも、住んでいる人みんなで分厚い計画書を書くのは大変じゃない?

🦉モーリー:その通り。だから実務では、専門家の力を借りることが多い。管理会社や建築士事務所などに、建物の調査や計画案の作成を委託する。さらに、必要に応じて、管理組合の立場から助言を行うマンション管理士などの専門家に相談することもある。

計画の作成・変更や、そのための調査・診断にかかる費用は、管理組合の財産の状況に応じて、管理費または修繕積立金のどちらからでも充当できる、とされています。計画的に行う場合は、その費用を長期修繕計画に計上し、修繕積立金から充てるという考え方も示されています。

📝 ポイントまとめ

  • 新築時の最初の計画案は、ふつう分譲会社が作成。引渡し後の見直し・変更の主体は管理組合(区分所有者の集まり)で、決めるのは総会
  • 計画案の作成・見直しは、管理会社や建築士事務所に委託することが多い
  • マンション管理士などから助言を受けることもある

3. どれくらい先まで見通すの?

🐈ニャッタ:三十年って、ずいぶん先まで考えるんだね。

🦉モーリー:そうなんだ。ガイドラインでは、計画期間は「三十年以上」で、なおかつ「大規模修繕工事が二回ふくまれる期間以上」とされています。この二つは、どちらも満たす必要がある条件なんだ。大きな工事の周期は建物や工事の内容によって変わるから、二回ぶんが三十年に収まらないときは、そのぶん長く見通しておくことになる。

🐈ニャッタ:でも、築四十年のマンションだったら、さらに三十年先まで考えるの?

🦉モーリー:そうなんだ。長期修繕計画は、「この先も維持していくなら、どんな修繕が必要になるか」を見通すためのものだからね。

たとえば築四十年なら、築五十五年ごろの大規模修繕や、設備の更新、その先の工事まで見通して計画を立てることもある。

🐈ニャッタ:そんな先まで決めちゃうの?

🦉モーリー:決めるというより、その時点で考えられる見通しを置いておくんだ。建物の状態や物価、工事費は変わるから、五年程度ごとに調査・診断をして、その結果をもとに見直していくんだよ。

以前は、すでに建っているマンションは二十五年以上、と短めに分かれていた。令和三年九月の改訂で、新築と同じ「三十年以上で、かつ大規模修繕が二回ふくまれる期間以上」にそろえられた。

💡 モーリーのフクロウメモ

工事の周期は、かつては「○年ごと」と一律の目安で語られることが多かった。令和三年九月の改訂で、実際の工事事例などをふまえて、修繕周期が一定の幅をもって示されるようになった。だから「何年で必ず」と言い切るより、「概ねこのあたり」と幅で読むのがいいよ。

4. 一度作ったら、それで終わり?

🐈ニャッタ:三十年ぶん作ったら、あとはその通りに進めるだけ?

🦉モーリー:いや、そこが大事なところでね。物価も、工事の費用も、建物の傷み方も、年々変わっていく。だからガイドラインでは、五年程度ごとに調査・診断を行い、その結果に基づいて見直すことが必要、とされています。見直しそのものにも、おおむね一〜二年かかるといわれている。調査や検討、総会での承認などを経て進められるためだ。

作ったときの想定と、実際の費用は、少しずつずれていく。見直しをしないままだと、計画と現実の差が開いて、あとでまとまった負担が必要になることもある、と言われている。だから「最後にいつ見直したか」も、ひとつの見どころなんだ。

5. 長期修繕計画は、何を教えてくれる?

🐈ニャッタ:この計画があると、不動産の価格を考えるとき、何が見えてくるの?

🦉モーリー:これからどんな工事が控え、計画のうえで、その費用をどう賄う想定なのかが見えてくる。ただし、本当に十分な資金があるかどうかは、いまの積立残高や滞納の状況、直近の決算書もあわせて確認する必要がある。長期修繕計画を支える中心になるのが、毎月の修繕積立金なんだ

🐈ニャッタ:積立金って、計画の工事費を、ただ期間で割るだけじゃないの?

🦉モーリー:そう単純でもなくてね。積立金の額は、計画にある工事費だけでなく、いまの積立残高や、最初にまとめて集める修繕積立基金、駐車場などの使用料からの繰入れ、運用益も見ながら、収支計画として決めていく。

国のガイドラインでは、積立額を計画期間中で均等にする「均等積立方式」が、望ましい方式とされています。ただし、均等といっても金額がずっと変わらないという意味ではなく、物価や工事費、劣化の状況によっては、見直しのたびに積立額が変わることもある。

🦉モーリー:はじめを低めにして段々上げていく「段階増額積立方式」も、とくに新築マンションでは広く採用されている。ただ、あとで負担が増えていくから、令和六年六月には、引上げ幅の考え方(初期額は、均等積立方式とした場合の月額の0.6倍以上、最終額は1.1倍以内など)も示された。

🐈ニャッタ:なるほど。高いか安いか、じゃなくて、「これからの備えが、どれだけ見えているか」を読むんだね。

📝 価格を考えるときに確かめたいこと

  • 計画が最後に見直されたのは、いつか(古すぎないか)
  • 積立方式は、均等か、段階増額か
  • これから、値上げ・一時金・借入れの予定があるか
  • 計画どおりに進めた場合、将来の資金が不足しないか
  • 計画上の工事費は、作成時点の価格か。物価の上昇をどのように見込んでいるか
  • 現在の修繕積立金の残高や、滞納の状況はどうなっているか

🦉モーリー:長期修繕計画は、建物のこれからを映す資料なんだ。ただし、長期修繕計画だけで不動産の価格が決まるわけではなく、管理の状況や積立金の残高、建物の状態などとあわせて判断する。ほかの資料とあわせて読むことで、不動産の価格につながる手がかりが少しずつ見えてくるよ。

6. まとめ──“長期修繕計画”

  • ✅ 長期修繕計画は、建物の修繕を三十年規模で見通す計画。国土交通省のガイドライン・標準様式が参考にされている(直近は令和六年六月改定)
  • ✅ 新築時の最初の計画案は分譲会社が作成し、引渡し後の見直し・変更の主体は管理組合(決めるのは総会)。実務では管理会社や建築士事務所に作成を委託し、マンション管理士などの助言を受けることもある
  • ✅ 計画期間は「三十年以上で、かつ大規模修繕工事が二回ふくまれる期間以上」。既存マンションも令和三年九月の改訂でこの基準にそろえられた
  • ✅ 物価や建物の状態に合わせ、五年程度ごとに調査・診断を行い、その結果に基づいて見直すことが必要とされている
  • ✅ 長期修繕計画は毎月の修繕積立金を中心に支えられている。均等積立方式が望ましいとされ、直近の見直し・積立方式・将来の値上げ予定などが、建物のこれからを読む手がかりになる

この記事の原典(一次資料)

本記事は、以下の原典をもとに整理しています。制度や運用は更新されるため、実務で利用する際は最新の原典をご確認ください。

  • 国土交通省「長期修繕計画標準様式、長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」(平成20年6月策定/令和6年6月改定) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001747006.pdf
  • 国土交通省 報道発表資料(令和3年9月28日)「『長期修繕計画標準様式…』及び『マンションの修繕積立金に関するガイドライン』の見直しについて」※既存25年→30年・修繕周期の幅の改訂 https://www.mlit.go.jp/report/press/house06_hh_000206.html
  • 国土交通省 報道発表資料(令和6年6月)「…改定について ~段階増額積立方式における適切な引上げの考え方~」 https://www.mlit.go.jp/report/press/house03_hh_000204.html
  • 国土交通省「マンションの修繕積立金に関するガイドライン」(平成23年4月/令和6年6月改定) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001747009.pdf
  • 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」第32条(業務)及び同コメント(令和7年10月改正)

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