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レコル出版|土地基本法を読む──改正からみえる社会背景

モーリー

まえがき

土地という言葉には、ふしぎな手ざわりがあります。家を建てるための場所であり、田畑として作物を育てるための場所であり、税金の対象であり、相続のなかで誰かに受け継がれていく財産でもあります。そして、同じ「土地」という言葉が、ある時代には資産の象徴として語られ、別の時代には負担として語られていたりします。

土地基本法は、その「土地」という言葉に、国としてどんな考え方で向き合っていくのかを宣言した法律です。平成元年(一九八九年)に制定され、令和二年(二〇二〇年)に、はじめての本格的な改正が行われました。三十年あまりの時間を挟んだ二つの土地基本法は、同じ法律でありながら、映し出している社会の姿がずいぶん違っています。

この本では、土地基本法という宣言法を、条文の暗記としてではなく、「その時代に何を大切にしようとしたのか」という流れから読み直してみます。バブル期の地価高騰、所有者不明土地の広がり、人口減少と管理不全。それぞれの時代背景のなかで、法が何を守ろうとしてきたのかを、ゆっくりたどっていきます。

あわせて、土地基本法と不動産鑑定評価とのつながりにも触れていきます。地価公示や公的土地評価の均衡化。鑑定評価の実務のなかで、土地基本法の理念は、静かに関わっています。

🐿️ レコル:この本はね、『土地の憲法』ともよばれる土地基本法を、制定と改正の時代背景という二つの景色から読み直していくよ。条文の言葉を覚えるよりも、『なぜそう書かれることになったのか』を追いかけていくと、不動産鑑定評価との関係も見えやすくなるかもしれないね。

第一章 土地基本法という法律を読む

土地基本法は、「土地の憲法」と呼ばれることがあります。憲法という言葉は少し大げさに聞こえますが、土地という資源に対して、国がどんな基本的な考え方で向き合っていくのかを宣言した法律、という意味合いで、そう呼ばれてきました。

宣言法という性格

土地基本法は、罰則や、個別の土地利用を直接許可・禁止する規制を中心とする法律ではありません。「これをしたら罰せられる」という形で、国民に刑罰などの制裁を伴う義務を直接課す規制法ではない、と整理されています。ただし、まったく義務がないわけではなく、令和二年の改正後は、後の章でみるように、土地所有者等の責務や一定の努力義務、国・地方公共団体の施策への協力義務などが条文のなかに明文化されている点には、注意しておく必要があります。

代わりに、土地に関する基本理念を示し、国・地方公共団体・事業者・国民が果たすべき責務を示し、政府が取り組むべき施策の方向性を示すという形で、書かれています。こうした性格の法律を、宣言法とかプログラム法とよぶことがあります。

宣言法というと「実効性が乏しいのでは」と感じるかもしれません。けれども、土地基本法が示した理念は、地価公示、公的土地評価、土地利用規制、土地税制など、関連する制度の立法や政策運用における基本的な指針となり、地価公示法、不動産の鑑定評価に関する法律、国土利用計画法、相続税法、地方税法、都市計画法といった個別の法律の背景で、少しずつ形を持って働いていきます。個別の土地利用を直接許可・禁止する規制を中心とする法律ではないけれど、たくさんの制度の背景に流れている考え方を整理しておく ── そういう役割の法律だと読んでいいかもしれません。

四つの基本理念

制定当初の土地基本法には、土地に関する四つの基本理念が示されていました。

ひとつめは、公共の福祉の優先です。土地は限られた資源で、その所在する地域や、現在および将来の国民全体にとって意味を持つものなので、土地については、私的な所有や利用においても公共の福祉が優先される、という考え方が宣言されています。現行の条文も「土地については、公共の福祉を優先させるものとする」と定めています。

ふたつめは、適正かつ計画的な利用です。土地は、その地域の自然的・社会的・経済的・文化的な条件に応じて適正に利用されるものとされ、土地利用に関する計画が策定されている場合には、その計画に従って利用されるものとされました。「所有から利用へ」という言葉も、この理念のあらわれとして語られることがあります。

みっつめは、投機的取引の抑制です。土地は投機的取引の対象とされてはならない、と宣言されました。この理念は、制定当時の地価高騰という時代背景を、もっとも色濃く映している部分でもあります。

よっつめは、価値の増加に伴う利益に応じた適切な負担です。土地の価値が、社会的・経済的な要因によって増えていくときには、その増分に応じて適切な負担をしてもらう、という考え方です。固定資産税の見直しや、地価税の創設は、この理念と軌を一にし、土地基本法の制定後に進められた総合的な土地政策の一環として整理されています。

🐿️ レコル:四つの基本理念は、それぞれ別の話に見えるけれど、よく読むと「土地は財産として所有の対象であると同時に、周囲にも影響を与える公共的な性格を持っている」という、ひとつの考え方からつながっているんだよ。この入口を押さえておくと、後の章で改正の話を読むときも流れがつかみやすいかもしれないね。

第二章 制定された時代の背景 ── 平成元年の地価高騰

土地基本法が成立したのは、平成元年十二月でした。日本の地価が急騰し、なお上昇局面にあった時期にあたります。この時代背景を少しだけたどっておくと、なぜ「投機的取引の抑制」がわざわざ基本理念に書かれることになったのかが、見えやすくなります。

土地神話と異常な地価

一九八〇年代後半、日本の地価は、特に東京圏などの大都市を中心に、急激な上昇を続けていました。商業地・住宅地ともに地価が大きく上昇し、住宅価格も所得の伸びを大きく上回って、勤労者が住宅を取得することは著しく困難になっていきました。「東京の地価でアメリカ全土が買える」と語られたのは、誇張ではあれ、当時の人々が共有していた感覚をよく表しています。

地価が上がり続けるという前提は、「土地神話」とよばれました。土地は値下がりしない、買っておけば必ず値上がりする、という確信が、市場参加者の意思決定の背景に置かれていた時代です。そして、その確信が、さらに次の取引の値段を押し上げていく、という循環が現実に起きていました。

地価高騰がもたらしたこと

地価の上昇は、いくつもの社会的なゆがみをもたらしていきました。

都市部で働く勤労者にとっては、家を持つことが手の届かないものになっていきました。公共事業のために必要な用地の取得費が大きく膨らみ、道路や鉄道、公共施設の整備が思うように進まなくなっていきました。土地の含み益を担保にした融資が拡大し、金融機関の貸出が、土地の評価額に強く引っ張られるようになっていきました。

こうした時期には、不動産鑑定評価の現場も、難しい局面に立っていました。正常な価格とは何か。地価上昇への期待が市場を包むなかで、鑑定評価の現場でも、その問いに向き合う場面が増えていきました。

立法へ向かう流れ

政府は、土地基本法の制定前後を通じて、緊急の土地対策を矢継ぎ早に打ち出していました。国土利用計画法に基づく監視区域制度の活用・強化や、制定後の平成二年(一九九〇年)に大蔵省通達によって行われた不動産業向け融資の総量規制など、いわば対症療法に近い施策が中心です。これらとあわせて、「土地という資源にどう向き合っていくのか」という基本的な考え方を、法律のなかにきちんと位置づけ直しておこう、という議論が進められていきました。

臨時行政改革推進審議会(行革審)に置かれた土地対策検討委員会の答申などを経て、平成元年十二月、土地基本法が成立します。投機的取引の抑制、適正な利用、公共の福祉の優先、受益に応じた負担。四つの基本理念は、いずれも、その時代の地価高騰という現実への応答として書かれたもの、と読むことができそうです。

🐿️ レコル:土地基本法の四つの基本理念は、抽象的な原則のようにも見えるけれど、平成元年という時代に置いてみると、ひとつひとつが具体的な社会問題への返事だったことが見えてくるね。法律を読むとき、その法律が生まれた時代の景色をいっしょに思い浮かべると、文字の重みが少し変わってくるよ。

第三章 制定後に動いていったもの

土地基本法そのものは宣言法ですが、その理念を出発点にして、いくつもの制度が動いていきました。ここでは、そのうち代表的なものを、いくつか取り上げてみます。

地価税の創設と停止

土地基本法の制定後、平成三年(一九九一年)に地価税が創設されました(地価税法、平成三年法律第六十九号)。

地価税は、土地保有に伴う税負担の適正化や、資産としての有利性の縮減を図るもので、土地基本法の制定後に進められた総合的な土地政策・土地税制の見直しの一環として創設されました。

地価税は平成四年(一九九二年)から課税されましたが、その後の地価下落のなかで、地価高騰を抑えるという当初の課題は薄れ、平成十年(一九九八年)以降は課税が停止され、現在まで再開されていません。地価税が課税停止となった経緯は、バブル期の土地問題に対応するために設けられた制度が置かれた状況の変化を示すものとして読むことができそうです。

公的土地評価の均衡化 ── 七割評価・八割評価

不動産鑑定実務との関係で、もっとも大きく動いたのが、公的土地評価の均衡化です。土地基本法には、次のような考え方が示されています(制定時は第十六条、令和二年改正後は第十七条にあたります)。

「国は、適正な地価の形成及び課税の適正化に資するため、土地の正常な価格を公示するとともに、公的土地評価について相互の均衡と適正化が図られるように努めるものとする。」

主要な公的土地評価としては、地価公示価格、都道府県地価調査価格、相続税路線価、固定資産税評価額があります。それぞれ目的が異なるため、もともとは水準もばらばらでした。

相続税評価額は平成四年以降、地価公示価格の八割程度を目安に、固定資産税評価額は平成六年度の評価替えから、地価公示価格等の七割程度を目安にそろえていく、という運用に変わっていきます。「七割評価」「八割評価」とよばれているのが、この整理にあたります。

この公的土地評価に関する条文(制定時の第十六条、現在の第十七条)は、公的土地評価の水準を相互に均衡させていく方向性を示したものでした。その過程で、地価公示価格が公的土地評価の共通の目安として果たす役割は一層明確になり、不動産鑑定評価は、その基盤を支える制度として重要性を増していったと読むことができそうです。

土地白書という記録

土地基本法は、政府に対して、毎年、土地に関する動向と施策の状況を国会に報告することを求めています。この報告として刊行されているのが「土地白書」です。

土地白書には、地価動向、土地取引、土地利用、土地税制、不動産投資市場の状況など、土地に関する政策情報が広く整理されています。不動産市場の大きな流れを把握するための資料のひとつ、と整理してもよいかもしれません。

🐿️ レコル:土地基本法そのものは理念を示す法律だけれど、その理念は、公的土地評価や税制、土地政策のなかで少しずつ具体的な形になっていったんだ。七割評価・八割評価も、地価税も、土地白書も、その流れのなかに置いて見ることができそうだね。

第四章 時代が静かにうつろう

土地基本法が制定された平成元年から、令和二年の改正までのあいだに、土地をめぐる景色は、ずいぶん変わっていきました。地価の長期下落、人口減少、相続未登記の蓄積。改正を読むためには、その間に静かに変わっていった社会の姿を、もう一度たどっておくとよさそうです。

地価の長期下落と土地神話のゆらぎ

平成三年を境に、地価は長期下落に入りました。商業地・住宅地ともに、一九九〇年代を通じて下落が続き、地方圏では二〇〇〇年代に入っても下げ止まらない地域が残りました。「土地は値下がりしない」という土地神話は、その後二〇年以上にわたる地価下落を経て、多くの人にとって当然の前提ではなくなっていきました。

この変化は、人々の土地に対する考え方を、変えていきました。土地は、必ずしも資産として価値を保証されない。場合によっては、所有そのものが、税や維持管理費の負担を生む。「持っていれば安心」という意識が揺らいでいきました。

所有者不明土地

二〇一〇年代の半ば、土地行政の現場で大きな話題になったのが、所有者不明土地の問題でした。

所有者不明土地とは、不動産登記簿などの公簿情報から所有者の所在が直ちに判明しない、あるいは判明しても連絡がつかない土地のことをいう、と整理されています。

一般財団法人国土計画協会に置かれた所有者不明土地問題研究会(増田寛也座長)は、一定の推計方法により、二〇一六年時点の所有者不明土地を約四百十万ヘクタールと推計しており、これは九州の土地面積を上回る規模にあたると報告されています。

ただし、この数字は実際に全国の土地をすべて調べた結果ではなく、一定の方法によって推計されたものです。

原因の多くは、相続が発生したときに、所有権の移転登記がされないまま放置されてきたことにあります。世代が重なっていくと、法定相続人の数が指数的に増えていき、戸籍をたどっても全員の所在を確認することが事実上難しくなっていきます。一回一回の判断の積み重ねというよりは、長い時間のなかで少しずつ生まれていった構造的な問題、と読むことができそうです。

所有者不明土地は、公共事業用地の取得、農地集約、防災・減災のための事前的な土地利用調整、空き家の除却、地籍調査の実施など、さまざまな場面で実務的な障害になってきました。

管理不全土地と「負動産」

所有者不明土地と並んで浮かび上がってきたのが、管理不全土地の問題です。所有者は判明しているけれど、適正な管理が行われずに、雑草が繁茂したり、土砂崩落のおそれが生じたり、不法投棄の場になったりして、周辺環境に外部不経済を生じさせている土地のことをいいます。本書では「管理不全土地」という言葉を、適正な管理が行われていない土地を指す一般的な意味で用いています。管理不全の背後には、所有者の高齢化や、相続人が遠方に居住していることがあります。

そして、管理にかかるコストを上回るような利用価値や売却価値が見込めない土地が、社会のなかで一定の割合を占めるようになっていきました。「負動産」という造語が広く語られるようになったのも、このころからです。

管理不全土地は、周辺環境の悪化や土地利用の停滞を通じて、地域の価格形成にも影響を与えることがあります。

🐿️ レコル:平成のはじまりは『地価が高すぎる』時代で、令和のはじまりは『土地を持ちきれない』時代になっていたんだね。同じ土地という言葉でも、時代によって人との関係がずいぶん変わる。土地基本法の改正は、時代の変化を受け止めるための書き直しだった、と読むと流れがつかみやすくなりそうだよ。

第五章 令和二年の改正で書き換えられたもの

令和二年三月、土地基本法等の一部を改正する法律が成立し、同月三十一日に公布されました。制定以来、はじめての本格的な改正です。改正の背景と内容を、流れに沿って読み直していきます。

改正の趣旨

国土交通省は、改正の趣旨を「人口減少社会に対応した土地政策の再構築」と「地籍調査(境界や面積などの基礎情報整備)の円滑化」と説明しています。

地価高騰と投機的取引を主な課題としていた土地基本法の枠組みを、人口減少や所有者不明土地、管理不全土地といった新たな課題に向き合えるものへと組み直す改正だったと整理することができそうです。

「利用」から「利用及び管理」へ

改正の中心は、土地基本法を貫いていた「適正な利用」という言葉に、「管理」を加えていったことにあります。条文の見出しや本文のなかで、「適正な利用」とされていた箇所が、「適正な利用及び管理」に書き換えられていきました。

新たに置かれた第三条第二項では、土地は、周辺地域の良好な環境の形成を図るとともに、周辺地域への悪影響を防止する観点から、適正に利用し、又は管理されるものとする、という考え方が示されました。土地の管理は、所有者だけの問題にとどまらず、周辺地域の環境を形作っていく公共的な機能の一部でもある、という考え方が、改正法のなかでより明確に示されました。

基本理念の再整理

改正後の基本理念は、(一)公共の福祉の優先、(二)適正な利用及び管理等、(三)円滑な取引等、(四)土地所有者等による適切な負担、という四つに整理されています。

制定時の四つの理念と比べると、いくつか変化が見えます。ここで注意したいのは、「投機的取引の抑制」がなくなったわけではない、という点です。現行の土地基本法第四条は、見出しを「円滑な取引等」とし、第一項で適正な利用及び管理を促進する観点からの円滑な取引を定める一方、第二項で「土地は、投機的取引の対象とされてはならない」と明記しています。つまり、従来の「投機的取引の抑制」を維持したうえで、所有者不明土地や管理不全土地といった問題に対応するため、土地の利用や取引を円滑に進めるという考え方が加えられ、両者が第四条の「円滑な取引等」として整理された、と読むことができそうです。

土地所有者等の責務の明文化

改正のもうひとつの大きな柱が、土地所有者等の責務を独立の条文として明文化したことです。第六条では、土地所有者等は、基本理念にのっとって、土地の利用及び管理ならびに取引を行う責務を有することが示され、あわせて、土地の所有者は、登記手続その他の権利関係の明確化のための措置と、所有権の境界の明確化のための措置を、適切に講ずるよう努めなければならない、という考え方が整理されています。

登記による権利関係の明確化と、境界の明確化。いずれも、所有者不明土地や管理不全土地の問題と深くつながっている領域です。

これと近い時期には、「民法等の一部を改正する法律」(令和三年法律第二十四号)により、民法や不動産登記法の見直しが行われました。不動産登記法では、相続登記の義務化や住所等変更登記の義務化が導入され、あわせて「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和三年法律第二十五号)も制定されました。

これらは、令和二年の土地基本法改正と共通する所有者不明土地問題への対応という政策的背景のもとで、令和三年に別途成立した民事基本法制上の改革です。土地基本法改正そのものに含まれる制度ではありませんが、改正土地基本法が掲げた所有者の責務と方向性を同じくする動き、と読むことができそうです。なお、相続登記の申請義務化は令和六年(二〇二四年)四月一日から、住所等変更登記の申請義務化は令和八年(二〇二六年)四月一日から施行されています。

🐿️ レコル:改正の前と後で、土地基本法の重心が、『地価』から『管理』にゆっくり移っていったんだね。平成のはじまりには「土地が高すぎること」が問題だったけれど、令和のはじまりには「土地が適切に利用・管理されないこと」が問題になっていた。同じ法律でも、映している時代の課題はずいぶん違うんだよ。

第六章 土地基本方針と地籍調査

改正のもうひとつの特徴は、土地基本法本体だけではなく、関連する法律もあわせて改正されたことです。ここでは、土地基本方針と地籍調査の話を取り上げます。

理念を施策につなぐ土地基本方針

改正法では、政府が「土地基本方針」を閣議決定する制度が新しく設けられました。改正後の土地基本法第二十一条は、政府が土地基本方針を「定めなければならない」と規定しており、これは政府に課された法定の策定義務です。土地基本方針は、土地に関する施策を総合的に推進するための基本的な方針として位置づけられています。

令和二年五月二十六日、改正法の施行直後に、最初の土地基本方針が閣議決定されました。土地の所有者を明確化する仕組み、管理不全土地への対応、適正な土地利用の確保、土地取引市場の整備、土地情報の整備など、改正法の理念を施策のレベルで具体化していく内容となっています。その後、土地基本方針は数次にわたって変更されており、令和六年六月十一日には、土地基本方針の変更が閣議決定されています。

地籍調査の円滑化

改正法は、国土調査法もあわせて改正しています。地籍調査は、一筆ごとの土地について、所有者、地番、地目を確認し、境界の位置と地積を測量して、地籍簿と地籍図にまとめていく事業です。国土交通省の公表資料によれば、令和六年度末時点における地籍調査の進捗率は、全国で五十三%、優先実施地域に限ると八十一%となっています。

改正された国土調査法では、固定資産課税台帳等を活用した所有者探索の手法が整備され、所有者の所在が判明しないときでも筆界案の公告によって調査を進められる仕組みが導入されました。あわせて、地方公共団体による筆界特定の申請に関する規定も置かれています。また、関係法令・作業規程等の見直しにより、現地立会いに依存しない確認方法や、地域特性に応じた効率的な調査手法の活用も進められています。

地籍調査の進み方は、不動産鑑定評価における対象不動産の確定とも深く関係しています。境界が明確でない土地や、公簿面積と現況面積に差異がある土地では、評価の前提条件の整理が重要になります。改正法による地籍調査の円滑化は、長い時間をかけて、土地の範囲や権利関係に関する情報の精度向上につながっていくことが期待されています。

🐿️ レコル:地籍調査は、少し地味に見えるかもしれないね。でも、誰がどこまで土地を持っているのかという基礎情報が整っていくと、土地政策も、取引も、不動産鑑定評価も、その土台の上で動きやすくなるんだ。理念を示した土地基本法が、こうして施策へつながっていくところに、改正のもうひとつの意味が見えてくるよ

あとがき

土地基本法は、個別の土地利用を直接許可・禁止する規制や罰則を中心とする法律ではありません。基本理念と、土地所有者等・国・地方公共団体・事業者・国民それぞれの責務や一定の努力義務、そして基本的な施策を定める法律です。それだけに、条文を一行ずつ追っていくだけでは、半分しか読めないところがあるように感じます。残る半分は、その理念が、どんな時代に、どんな社会問題への返事として書かれたか、そしてその理念が個別法令の解釈や運用のなかで、どんな色をつけていったかという、文脈のなかに置かれています。

制定時の土地基本法は、地価高騰と投機の時代を映し、適正な利用と公共の福祉優先を宣言しました。改正後の土地基本法は、人口減少と管理不全の時代を映し、適正な利用と管理、そして土地所有者等の責務を明確にしました。

同じ法律でありながら、映し出している社会の姿は、ずいぶん違っています。

次に土地基本法が改正されるとき、それはきっと、私たちが今はまだ気づいていない、別の土地問題が静かに広がっていったときなのだろうと思います。法律は、社会の景色を映す鏡のような側面を持っていて、土地基本法は、特にその性格が強い法律です。

土地基本法を読み直すと、土地に関する制度や政策が、どのような問題意識のもとで作られてきたのかが見えてきます。不動産鑑定評価もまた、そうした社会の動きと無関係ではありません。

この本が、土地基本法を、暗記すべき条文のかたまりとしてではなく、「時代と社会と価格をつなぐ流れ」のなかで読み直すきっかけになれば、嬉しく思います。

夜の森にて 🐿️ レコル

主な参照資料

この本は、以下の資料をもとに整理しています。制度や運用は更新・改正されるため、実務で利用する際は最新の原典をご確認ください。

・土地基本法(e-Gov法令検索)

https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000084

・土地基本法等の一部を改正する法律(衆議院・成立法律)

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/20120200331012.htm

・土地:土地基本法・土地基本方針・土地白書(国土交通省)

https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/tochi_fudousan_kensetsugyo_tk2_000001_00015.html

・「土地基本法等の一部を改正する法律案」を閣議決定(国土交通省 報道発表)

https://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo02_hh_000149.html

・人口減少時代における土地政策の推進 ── 所有者不明土地等対策(国土交通省)

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk2_000099.html

・地価公示法(e-Gov法令検索)

https://laws.e-gov.go.jp/law/344AC0000000049

・不動産の鑑定評価に関する法律(e-Gov法令検索)

https://laws.e-gov.go.jp/law/338AC0000000152

・不動産鑑定評価基準(国土交通省)

https://www.mlit.go.jp/common/001204083.pdf

・不動産鑑定評価基準運用上の留意事項(国土交通省)

https://www.mlit.go.jp/common/001204077.pdf

・土地・不動産・建設業:法令・不動産鑑定評価基準等(国土交通省)

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk4_000024.html

・国土調査法(e-Gov法令検索)

https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000180

・地籍調査Webサイト(国土交通省)

https://www.chiseki.go.jp

・所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(法務省)

https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html

・所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法(e-Gov法令検索)

https://laws.e-gov.go.jp/law/430AC0000000049

・法令・基準ガイドライン(公益社団法人 日本不動産鑑定士協会連合会)

https://www.fudousan-kanteishi.or.jp/houreiguideline1/20141008_jitsumushishin

・所有者不明土地問題研究会(一般財団法人 国土計画協会)

https://www.kok.or.jp/project/fumei.html

・「土地の戸籍」に関する最新の調査実施状況(令和六年度末時点の進捗率)(国土交通省 報道発表)

https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo06_hh_000001_00015.html

※リンク先は、執筆時点で確認できたものを掲載しています。

── 奥 付 ──

土地基本法を読む

── 改正からみえる社会背景

編集日:2026年6月20日

編集・寄贈:レコル出版

夜の森図書館 蔵

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