実務の森|どうして空き家は増えていくの?──使われない家が、残っていく仕組み
“ 誰も住まないのに、なくならない家のこと ”

モーリーとニャッタは、森のはずれの小道を歩いていた。木立の奥に、雨戸を閉じたままの古い一軒家が見える。庭は草に覆われ、ずいぶん長いあいだ空き家になっているようだ。
ねえモーリー。あの家、誰も住んでないみたいだし、ずいぶん古そうだね。どうして、そのままにしてるんだろう?
いい問いだね。ちなみに、この話でいう空き家は、人が住むための住宅のことだよ。オフィスや店舗としてだけ使われる建物は含まれないんだ。誰も住まないのに、壊されもせず、残っていく──。実は、そこにはいくつもの背景が重なっているんだ。
今回は、そんな“空き家”が増えていく仕組みについて、モーリーたちと見ていこう──。
1.空き家は、そんなに増えてるの?
🐈 ニャッタ:空き家は、どれくらいあるの?
🦉 モーリー:全国の空き家の数はおよそ900万戸。住宅全体の13.8%が空き家なんだ。空き家の数・空き家率ともに、これまでで最も高い水準なんだよ。
これは総務省が5年ごとに実施している「住宅・土地統計調査」の、令和5年(2023年)の結果だ。空き家の数は、この30年ほどでおよそ2倍に増えている。
ただし、この900万戸のすべてが、いわゆる放置された空き家というわけではない。
🐈 ニャッタ:ちょっと疑問なんだけど、その空き家って、どうやって数えてるの?
🦉 モーリー:この調査は、全国から抽出した住宅を対象に行われているんだ。調査員が建物の外観を確認したり、調査票などで居住状況を確認したりして、その結果をもとに全国の空き家数を推計しているんだよ。
だから、全国のすべての住宅の所有者に確認して、「放置された家」だけを数えた数字ではないんだ。
🐈 ニャッタ:じゃあ、その調査でいう空き家には、どんな住宅が含まれるの?
🦉 モーリー:売り出し中の住宅や賃貸募集中の部屋、転勤や入院などで長く不在の住宅も含まれているんだ。さらに、一戸建てだけでなく、マンションやアパートの空室も空き家として数えられている。共同住宅は建物一棟ではなく、一つひとつの住戸を空き家として数えているんだ。
🐈 ニャッタ:なるほど。空き家って聞くと、古い一軒家ばかりを想像してたよ。
🦉 モーリー:そう思う人は多いね。でも、統計でいう空き家は、もっと幅広い意味なんだ。
そのうえで、900万戸のうち、売りに出されている住宅や賃貸募集中の住宅、別荘などを除いた空き家は、およそ385万戸なんだ。
🐈 ニャッタ:じゃあ、その385万戸は、みんな放置された家なの?
🦉 モーリー:そういうわけでもないんだ。転勤や入院などで長期間住んでいない住宅なども含まれるからね。
💡 モーリーのフクロウメモ
「空き家が900万戸」と聞くと、全部が荒れ果てた家のように思ってしまう。でも実際には、売り出し中の住宅や賃貸募集中の部屋、別荘、マンションの空室なども含まれている。だから、「空き家900万戸」という数字だけでは実態までは分からない。どんな状況の家を空き家として数えたのかまで見て、はじめて空き家の実態が見えてくるんだ。
では、その空き家は、どうして生まれるのだろう。次から、空き家が生まれる背景を見ていこう。
2.どうして、空き家になるの?
🐈 ニャッタ:そもそも、どうして空き家になっちゃうの?
🦉 モーリー:住む人がいなくなるきっかけはいろいろあるけれど、相続は大きな理由のひとつなんだ。国土交通省が空き家の所有者に、その空き家をどのように取得したかを尋ねた調査では、相続が約58%でいちばん多かったんだよ。
住んでいた人が亡くなると、その家は相続人へ引き継がれる。また、高齢になり、施設への入所などをきっかけに、誰も住まなくなることもある。
🐈 ニャッタ:でも、住まないなら人に貸したり、売ればいいんじゃないの?
🦉 モーリー:そう思うよね。でも相続した人には、たいてい自分の住まいが別にある。遠くで暮らしていれば、現地へ行くのも簡単じゃない。貸すためには、修繕やリフォーム費用がかかることもあるし、地域によっては借り手や買い手がなかなか見つからないこともあるんだ。
こうして「誰も住んでいない家」が生まれていく。
背景には、人口減少など、地域の変化もある。空き家は、ある家の事情を反映すると同時に、地域の実情も映している。
3.どうして、壊さずに残るの?① お金のこと
🐈 ニャッタ:古い家で住まないなら、取り壊して更地にしたほうが管理に手間がかからないよ。どうしてそのままにするの?
🦉 モーリー:壊すこと自体に、お金がかかるんだ。
古い家を取り壊して更地にするには、解体費という費用がかかる。金額は建物の構造や大きさ、重機が入れるかどうかなどで大きく変わる。住む予定のない家のために、まとまったお金を出すのは、なかなか踏み切りにくい。
「いつか考えよう」と思っているうちに、年月だけが過ぎていく。これも、空き家として放置される理由のひとつなんだ。
4.どうして、壊さずに残るの?② 税のしくみ
🐈 ニャッタ:お金がかかるのは分かったけど、それだけ?
🦉 モーリー:もうひとつ、税のしくみも関係している。人が住むための土地(住宅用地)には、固定資産税を軽くする特例がある。ところが、建物を壊して更地にすると、その特例が外れて、土地にかかる固定資産税の負担が大きくなることがある。
つまり、空き家でも建物を残しておいたほうが、土地の税の面では負担が軽くなりやすい──。これが、「壊すより、もう少しそのままにしておこう」という意識を生んできた、と言われている。
くわしくは、別の話「古い家を壊したら、税金が上がるって本当?」でモーリーたちが歩いているよ。
5.空き家を増やさない仕組みづくり
🐈 ニャッタ:でも、そのまま残っていても、別に困らないようにも思えるけど……。
🦉 モーリー:住む人がいない家が増えると、手入れされないまま傷んでしまうことがある。地域によっては防災や防犯の心配につながることもあるし、周りの住環境にも影響することがある。だから、空き家をどう活用したり適切に管理したりするかが課題になっているんだ。
🐈 ニャッタ:だから、いろいろな制度が変わってきているんだね。
🦉 モーリー:最近は、空き家を放置しないための仕組みや、自治体による空き家バンクなど、空き家を活用しやすくする制度が少しずつ整えられているんだ。
たとえば空き家対策の法律(空家対策特別措置法)は、2023年(令和5年)6月に改正法が公布され、同年12月13日に施行された。新しく「管理不全空家等」という区分ができて、放っておくと危険な状態になりそうな空き家について、市区町村が指導や勧告をできるようになった。市区町村から指導を受けても改善されず、勧告を受けると、さきほどの住宅用地の特例が外れることがある。
税の面でも、相続した空き家を一定の期限内に売った場合に、もうけ(譲渡所得)から最高3,000万円までを差し引ける特例がある。令和9年(2027年)12月31日までの売却が対象とされている。細かな要件があるので、使うときは最新の内容を確認してね。
こちらは、空き家を「売る」という選択を後押しする制度と言える。
ほかにも、空き家を手放しやすくする制度も用意されている。
また、2023年(令和5年)4月からは、相続した土地を、審査を経て一定の負担金を納めることで国に引き取ってもらえる場合がある「相続土地国庫帰属制度」という新しい仕組みも始まっている。ただし、この制度は建物が残っている土地には原則として利用できない。建物を解体して更地にしたうえで、土地の状態など一定の要件を満たす必要がある。
🦉 モーリー:人口減少などによる需要の問題に加えて、空き家の放置につながりやすい仕組みもあったんだよ。そして今は、その仕組みを少しずつ見直そうとしているんだ。
まとめ──“空き家が残っていく仕組み”
- 空き家はおよそ900万戸・空き家率13.8%(令和5年)で、ともに過去最多・過去最高。30年ほどで約2倍に増えてきた。
- 空き家の所有者への調査では、相続で取得した空き家がおよそ6割だった。
- 解体費がかかることや、建物を壊すと住宅用地の特例が外れ、土地の税負担が増える場合があることが、「壊さず残す」方向に働いてきた。
- 2023年の法改正や相続空き家の3,000万円特別控除、国庫帰属制度などで、空き家を増やさない仕組みづくりが進んでいる。
参照した原典
制度や統計は更新されます。最新の原典をご確認ください。
・総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」(2024年9月25日公表) https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/tyousake.html
・国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法 関連情報」(令和5年改正・管理不全空家等) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html
・e-Gov 法令検索「空家等対策の推進に関する特別措置法」 https://laws.e-gov.go.jp/law/426AC1000000127
・国税庁 タックスアンサー No.3306「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
・国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)」 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000030.html
・法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00457.html
・国土交通省「令和6年空き家所有者実態調査」(取得方法・人が住まなくなった理由の出典/令和7年8月公表) https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/R6_akiya_syoyuusya_jittaityousa.html
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