不動産調査

実務の森|私道の通行・掘削同意

モーリー

―― 5号道路と2項道路で気をつけたいこと

「法上の道路」と「私道としての権利」は、別物として確認する

🐈 ニャッタ:「前の道は『建築基準法上の道路』だから安心、って思っていたんだけど、不動産屋さんに『私道だから、水道工事のときは同意が必要かも』って言われたんだ。法上の道路なのに、どうして?」

🦉 モーリー:「いい引っかかり方だね。『建築基準法上の道路かどうか』と、『その道を誰が所有していて、何が自由にできるか』は、別々の問題なんだ。一見ひとつの道なのに、ふたつの顔を持っている――そんな性質を整理してみよう。」

1. 「法上の道路」と「私道」は、別の評価軸

建築基準法上の道路かどうか――この判定は、その道に建物が接道できるか、建てられるかを決めます。一方、その道が私道(所有者が個人や法人)の場合、

・通行ができるか

・上下水道やガス管の工事で掘削ができるか

・維持管理の費用負担はどうなるか

といった「私道としての権利」は、別の根拠(民法、地役権、共有関係、合意など)で判断されます。

法上の道路であっても私道のケース――たとえば、

・1項5号道路(位置指定道路):原則として私道

・2項道路:所有関係は公道・私道のいずれもあり得る

・1項2号道路(開発道路):公告後しばらく私道、その後寄付採納で公道化することもある

・1項3号道路(既存道路):公図上の道のうち、私道として残っているもの

では、法上の道路の扱いとは別に、所有者との関係を確認する必要があります。

🦉 モーリー:「法上の道路として『建てられる』ことと、私道としての『通れる』ことは、根拠が違うんだ。ふたつとも揃って、はじめてその道が『使える道』になるよ。」

2. 通行権 ―― 建築基準法と民法の重なり

(1) 建築基準法第44条の枠組み(公法上の制約)

建築基準法第44条は、原則として道路内に建築物・擁壁を設けてはならないと定める「道路内の建築制限」の規定です。位置指定道路(5号)のような私道であっても、いったん法上の道路として位置づけられた以上、所有者であってもその上に建物等を建てることや、道路としての機能を一方的に損なうこと(私的に廃止・変更すること)は制限されます(44条・45条)。

ただし、44条はあくまで公法上の建築制限の規定であり、第三者に対して直接に「私法上の通行権」を発生させる規定ではない、という点には注意が必要です。

実際の通行をめぐる紛争では、判例上、位置指定道路を日常生活上不可欠の利益として通行している者は、所有者に対して通行妨害の排除や将来の妨害禁止を請求できるとされています(最判平成9年12月18日。妨害行為により通行者の利益を上回る著しい損害が所有者に生じる等の特段の事情がない限り)。2項道路についても、所有者が一般的に他人の通行を否定したり通行禁止を求めることは権利の濫用に当たるとされる例が多くあります。

つまり、位置指定道路や2項道路では、

・公法上:道路機能を一方的に損なう工作物の設置は44条等により制限される

・私法上:通行を全面的に禁じたり、通行料を一方的に徴収して通行を制限することは、判例法理(妨害排除請求権・権利濫用法理)や民法上の権利関係を通じて制約され得る

という形で、二段構えに「通行の自由」が支えられている、と整理するのが安全です。

(2) 民法上の通行権

法上の道路ではない私道(通路・路地など)の場合、通行の根拠は民法上の権利になります。

・通行地役権(民法第280条):設定登記・契約等により設定された通行権

・黙示の合意:長年の使用実態から認められる通行権

・民法第210条以下の囲繞地通行権:袋地から公道に出るための、最小限の通行権

通行料を取れるか・通行を制限できるかどうかは、道路の公法上の位置づけだけでなく、こうした民法上の権利関係と利用の実態を踏まえ、個別に判断されるのが原則です。書面(登記・契約・覚書)と現地の双方で確認することが大切です。

3. 掘削同意 ―― 上下水道・ガスの引込みで問題になる

(1) 従来の実務慣行

上下水道、ガスを敷地内に引き込むためには、私道を掘削する工事が必要になることが多くあります。電気・通信は架空引込で済む場合もありますが、地中埋設で引き込む場合は同じく私道掘削が問題となります。従来の実務では、

・私道の所有者全員から「掘削同意書」を取得する

・共有持分の場合は、共有者全員の同意を求める運用が一般的

・ライフライン事業者(水道局・ガス会社等)が、同意書の提出を求めることが多い

という慣行で進められてきました。同意書の有無は、土地の購入判断・評価判断に直結する重要な情報です。

(2) 2023年4月施行 改正民法 ―― ライフライン設備設置権・使用権の明文化

令和3年改正・令和5年(2023年)4月1日施行の改正民法では、ライフラインの設備設置権・設備使用権が明文化されました(民法第213条の2、第213条の3)。

・他人の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ、電気・ガス・水道水等の継続的給付を受けることができないときは、必要な範囲で他の土地への設備設置・他人の設備の使用ができる(213条の2第1項)

・設置・使用の場所および方法は、他の土地・他人の設備のために損害が最も少ないものを選ばなければならない(同条第2項)

・あらかじめ、目的・場所・方法を他の土地等の所有者および現に使用している者に通知する必要がある(同条第3項)

・他の土地の損害(設備設置に伴う通常損害)については償金を支払う必要がある/設備使用については利益に応じた費用の負担が必要となる場合がある(同条第4項~第7項)

・土地の分割・一部譲渡によりライフラインを受けられない土地が生じた場合の特則がある(213条の3)

この改正によって、形式的には「相手方の承諾がなくても、要件を満たせば設備の設置・使用を主張できる余地」が明確化されました。一方で、実務上はなお慎重な対応が続いています。

・「承諾なしで掘削できる」というよりも、「事前通知・損害最小の場所方法・償金支払いなど一定の手続を経て、権利として主張できる」という建付け

・実際に相手が同意しない場合の現場執行は自力ではできず、最終的には訴訟・仮処分等を要する

・ライフライン事業者によっては、トラブル防止のため引き続き同意書の取得を求めることが多い

・施工後の維持管理・補修や、当初の通知に含まれない工事内容については、改めて通知や合意が必要となる場面がある

・事前通知の方法・対象者・時期、償金の額については、ケースごとに法的判断が分かれる余地がある

🦉 モーリー:「改正民法で、ライフラインのための設備設置・使用権が明文化されたけれど、『承諾なく勝手に掘れる』というよりは、『一定の要件を踏まえて権利として整理された』と読むほうが近いんだ。だから今でも、実務では同意書の確認が重視されているよ。」

4. 共有形態の確認

私道の所有関係は、一律ではありません。実務でよく見るパターンは次の3つです。

共有形態登記の特徴実務上の留意点
全員共有(持分割合)私道全体を分譲時の地権者全員で共有「変更」に当たる工事は全員同意が原則。軽微変更・管理行為は持分過半数、保存行為は単独で可とされる場合がある(共有私道ガイドライン)
相互持合(クロス所有)私道の一部ずつを各地権者が単独所有し、相互に通行を認めるしくみ通行・掘削の同意関係が地番ごとに分かれる。各地番の所有者ごとに権原確認が必要
分譲事業者単独所有分譲会社が私道全体を単独所有し続けている事業者の解散・移転で同意取得が困難になることがある(所有者不明私道の問題)

古い分譲地では、所有者の相続が進み、共有者の人数が増えていることもあります。同意取得の難易度は、共有形態だけでなく、

・登記簿上の所有者の数

・所有者の所在の追跡しやすさ

・過去のトラブル履歴

といった要素にも左右されます。

(参考) 共有私道の工事と同意の整理

法務省「複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書(共有私道ガイドライン)」(最新版:令和4年6月 第2版)では、共有私道の工事を民法上の「変更/管理/保存」の枠組みで整理しています。改正民法(令和5年4月施行)の下では、おおむね次のように分類されます。

・変更行為(形状又は効用の著しい変更を伴うもの):共有者全員の同意が原則

・軽微変更を含む管理行為(アスファルト舗装、補修、清掃、ライフラインの軽微な引込工事など、形状・効用の著しい変更を伴わないもの):持分の価格の過半数で決定可

・保存行為(緊急の補修など):各共有者が単独で実施可

したがって、「共有私道は何でも全員同意」と一律に理解するのは正確ではありません。
実務では、工事後の紛争を避ける観点から、事業者が全員同意を求めることも多くあります。
ただ、法的には、工事の内容と共有形態に応じて、全員同意・持分過半数・単独実施の可否が分かれる点を押さえておきます。

5. 取引・評価のときに確認したい項目

・私道の所有者・共有者の構成(登記簿・公図で、地番ごとの所有関係を確認)

・通行・掘削に関する過去の協定書・覚書・承諾書の有無

・ライフライン事業者が、過去の引込み時に同意を取得していたか、その範囲・条件

・通行料・維持管理費の負担の取り決め

・過去のトラブル(通行妨害、掘削拒否、訴訟など)の履歴

・改正民法施行後(2023年4月以降)の事前通知・償金等の運用および判例動向

・ライフラインの引込み方式(架空/地中)と、地中の場合の掘削範囲

🦉 モーリー:「私道がある不動産は、『登記や契約で読める部分』と、『実際にどう使われ、どう合意されてきたか』が重なっているんだ。両方を見て、初めて状況が把握できるよ。」

6. 評価への反映

通行・掘削の不確実性は、それ自体が価格形成要因です。鑑定評価では、

・私道に対する持分の有無

・通行・掘削の同意取得の容易さ(共有形態・所有者数・所在追跡可能性)

・将来の建替えで同意が確保できる見込み

・過去のトラブル履歴

を踏まえて減価することがあります。法上の道路としての位置づけが整っていても、私道としての権利関係がほぐれていない土地は、評価上のリスクが残ります。

逆に、

・全共有者の同意書がそろっている

・市町村への寄付採納が進んでおり、将来の公道化が見込まれる

・改正民法に沿った設備設置・使用権の通知・償金関係の整理が済んでいる

といった条件が整っている場合は、不確実性の幅が縮まり、評価上の安定性が高まります。

7. モーリーのまとめ

・「法上の道路」と「私道としての権利」は、別の評価軸として確認する

・建築基準法44条は「道路内の建築制限」を定める公法規定。第三者の通行権を直接生むわけではないが、判例法理(最判平成9年12月18日等)により、位置指定道路や2項道路では通行妨害の排除等が認められる

・通行料の徴収や通行制限の可否は、公法上の位置づけだけでなく、民法上の権利関係・利用実態により個別判断される

・ライフラインの掘削は、従来は同意書取得が実務慣行。電気・通信は架空引込のこともあるが、地中埋設なら同じく掘削が問題になる

・2023年4月施行の改正民法(213条の2・213条の3)で、ライフラインの設備設置権・設備使用権が明文化された

・ただし「承諾なしで掘れる」ではなく、「事前通知・損害最小の場所方法・償金等の要件を満たして権利として主張できる」が正確

・実務では、トラブル防止のため同意書取得の運用が継続している場合が多い

・共有形態(全員共有・相互持合・事業者単独)と工事内容(変更/管理/保存)の組み合わせで、必要となる同意の範囲が変わる

🦉 モーリー:「『この道は法上の道路だから安心』で止まらず、『この土地が、将来も支障なく使い続けられるか』まで見届ける――それが、私道調査で大事なところなんだ。」

【参照】
建築基準法第44条・第45条/民法第210条以下(囲繞地通行権)/民法第280条以下(地役権)/改正民法第213条の2・第213条の3(令和3年改正・令和5年4月施行)/最判平成9年12月18日(位置指定道路の通行妨害排除請求)/法務省「複数の者が所有する私道の工事において必要な所有者の同意に関する研究報告書(共有私道ガイドライン)」第2版(令和4年6月)/各特定行政庁・ライフライン事業者の運用基準

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