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レコル出版|不動産の証券化を読む──各論第三章と金融とのつながりを読む

モーリー
Contents
  1. まえがき
  2. 第一章 不動産が「投資商品」になるまで
  3. 第二章 証券化のしくみと、リスクが投資家へ流れていく道すじ
  4. 第三章 各論第三章「証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価」を読む
  5. 第四章 投資家へのリスク転嫁を、鑑定評価がどう支えているのか
  6. あとがき
  7. この本の原典

まえがき

不動産は、本来とても重たいものです。

一つの土地、一棟の建物。動かすことができず、買おうとすれば多額の資金を要し、売ろうとすれば時間がかかります。維持にも、運営にも、専門的な知識や手間が必要です。

ところが、この重たい不動産を、誰もが少しずつ持てるようにしたしくみがあります。それが「不動産の証券化」です。

不動産を、そのまま売り買いするのではなく、不動産から生まれる将来の収益を裏付けにして、有価証券のかたちに加工する。そうして、株式や債券のように、市場で取引できるものへと姿を変えていく。証券化は、不動産を「投資商品」として再構築するための、ひとつの整理のしかたといえます。

この本では、その整理のしかたを、三つの入口からゆっくり読み直していきます。

一つ目は、不動産の証券化が、どのような経緯で日本にあらわれたのか。バブル経済の崩壊から、不動産特定共同事業法、資産の流動化に関する法律、投資信託及び投資法人に関する法律、そして金融商品取引法。それぞれの法律が、何を解こうとしてきたのかを、年代の流れに沿ってたどっていきます。

二つ目は、証券化のしくみと、その中でリスクがどのように投資家へと流れていくのか。原資産所有者から特別目的のビークルへ、ビークルから投資家へ。倒産隔離、優先劣後、ノンリコース・ローン。これらの言葉が、なぜそこに置かれているのかを、ひとつずつ読み解いていきます。

三つ目は、不動産鑑定評価基準各論第三章「証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価」を読むこと。この章は、平成十九年に新たに加えられました。証券化市場が大きく育つなかで、不動産鑑定評価が、依頼者だけでなく広範な投資家に重大な影響を与える仕事となったことを、基準そのものが正面から受けとめた章です。

証券化は、難解な金融用語が並ぶ世界に見えるかもしれません。けれども、その奥には、「不動産という重たいものを、どうやって多くの人に分け持ってもらえるようにするか」という、わりとシンプルな問いがあります。

この本では、その問いに、各論第三章がどう向き合っているのかを静かに整理していきます。

🐿️レコル:この本はね、不動産という重たいものが、どのように金融商品のかたちへ組み替えられていくのか、その整理のしかたを読んでいくよ。「経緯 → しくみ → 基準各論第三章」という流れで読むと、なぜ各論第三章が、ああいう書かれ方をしているのかが見えやすいよ。

第一章 不動産が「投資商品」になるまで

1 なぜ、不動産を「証券」にする必要があったのか

不動産は、もともと「持つもの」でした。所有して、自分で使うか、誰かに貸して、その家賃を受け取る。あるいは、値上がりを待って売る。日本においては長らく、不動産はそうした「持つもの」として向き合われてきたといえます。

ところが、平成のはじめにバブル経済が崩壊したあと、不動産をめぐる景色は静かに変わっていきました。地価が下がり、企業や金融機関のバランスシートには、簿価よりも価値を落とした不動産が並びます。売却したくとも買い手が現れない。仮に売却できたとしても、取得時より大きく価値が下がっており、売れば損失が表面化することも少なくありませんでした。

もともと動かしにくい資産が、さらに動かしにくいものとなって、抱え込まれていきました。

ここで、ひとつの問いが現れます。

「不動産そのものを売り買いするのではなく、不動産から生まれる収益だけを、誰かと分け合うことはできないだろうか」。

将来の家賃や売却益を裏付けにして、有価証券のかたちで資金を集める。所有者は資金を得て、投資家は不動産に直接ふれることなく、その収益にあずかる。── そう整理し直したものが、不動産の証券化です。

🐿️レコル:バブル崩壊で、不動産は「持ちきれなくなった資産」になっていったんだよね。そこで、不動産を売るのではなく、不動産から生まれる収益を、有価証券として切り出して売る、っていう発想が出てきたんだ。

2 不動産特定共同事業法(平成六年制定)── 小口化のはじまり

不動産の小口化商品自体は、証券化という言葉が広まる前から日本に存在していました。昭和六十年代から、不動産会社が小口化した不動産持分を投資家に販売する商品が広がります。けれども、業者の倒産などにより、投資家が損失を被る事例があらわれました。

そこで作られたのが、不動産特定共同事業法(平成六年制定、平成七年施行)です。

不動産特定共同事業は、複数の投資家から出資を受けて、不動産会社などの事業者が不動産取引を行い、その収益を投資家に分配する事業をいいます。任意組合型、匿名組合型などの契約類型を法律で位置づけ、事業を行う者には許可を要し、資本金や宅地建物取引業の免許といった一定の要件を課しています。

この法律のおもな関心は、投資家保護にあります。不動産を小口に分け、複数の人で持つというしくみが広がっていく中で、業者の信頼性や情報開示の枠組みを整えることで、安心して参加できる土俵を作ろうとしました。

3 資産の流動化に関する法律(平成十年)── SPCというしくみ

平成十年(一九九八年)、「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」が施行されます。その後、平成十二年の改正を経て、現在は「資産の流動化に関する法律(資産流動化法)」と呼ばれています。

この法律は、不動産などの資産を保有することだけを目的とした、特定目的会社(TMK)や特定目的信託というしくみを用意しました。資産を保有する者(オリジネーター)は、TMKに資産を譲渡し、TMKがその資産から生まれる収益を裏付けに、優先出資証券や特定社債などの「資産対応証券」を発行する。投資家は、TMKが発行した証券を購入することで、間接的に資産の収益にあずかる、というしくみです。

ここに、「不動産を保有する者の信用」と「不動産そのものから生まれる収益」が、法律上、別の財布として整理されるという考え方が現れました。これが、のちに見ていく「倒産隔離」「ノンリコース・ローン」といったしくみへとつながっていきます。

🐿️レコル:資産の流動化法は、「資産を持つだけのための、空っぽの会社」を法律で用意したんだ。空っぽにしておくのには理由があってね。所有者の借金や倒産の影響が、その器に入りこまないようにするためなんだよ。

4 投信法改正とJ-REITの誕生 ── 平成十二年・十三年

もう一つの大きな転換は、平成十二年の投資信託及び投資法人に関する法律(投信法)改正です。

それまでの投資信託は、主として有価証券を運用対象とする金融商品でした。改正により、投資信託が不動産等を運用対象に含められるようになり、日本にも「不動産投資信託(J-REIT)」のしくみが生まれました。

平成十三年三月、東京証券取引所がJ-REIT市場を開設し、同年九月十日、日本ビルファンド投資法人とジャパンリアルエステイト投資法人が、最初のJ-REITとして上場します。

J-REITでは、複数の投資家から集めた資金を、投資法人という会社型の器に集約し、その器が不動産を保有・運用していきます。投資家は、上場された投資口を市場で売買することで、いつでも参加や換金ができる。── 不動産が、ようやく「株式のように扱える金融商品」へと近づいたといえる出来事でした。

J-REIT市場はその後拡大を続け、令和の現在では時価総額が十数兆円規模に達するまでになっています。投資対象も、オフィスから、商業施設、住宅、物流施設、ホテル、ヘルスケアへと広がり、近年はデータセンターについても制度面の整理が進んでいます。

5 金融商品取引法と、市場としての位置づけ ── 平成十九年

平成十九年九月三十日、金融商品取引法が施行されます。

それまで証券取引法のもとで規制されてきた有価証券の世界が、より広い「金融商品」全体の規制へと再編されました。信託受益権が「みなし有価証券」として規制対象に組み込まれ、不動産証券化に関わる事業者にも、金融商品取引業者としての登録が求められるようになります。

つまり、不動産の証券化は、ただ「不動産を切り分ける手法」ではなく、「金融商品市場の中で扱われるもの」として正面から位置づけられた、ということです。

そして、この再編とほぼ同じ時期に、不動産鑑定評価基準にも大きな変化が起こります。各論第三章「証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価」の新設です(平成十九年四月二日付け国土交通事務次官通知、同年七月一日施行)。

金融商品取引法と、不動産鑑定評価基準各論第三章。この二つは、それぞれの場所から、同じ景色を見つめていたともいえます。── 不動産が金融商品として扱われるようになった以上、投資家保護の網は、不動産そのものの価格を判断する場面にも広げられる必要がある、という景色です。

6 経緯から見える、流れの「軸」

不動産特定共同事業法、資産の流動化に関する法律、投信法、金融商品取引法。一見すると、別々の法律が次々と登場してきたように見えます。

ただ、流れを並べると、ひとつの軸が見えてきます。

一つは、不動産を「小さく分けて、多くの人で持てるようにする」こと。もう一つは、そのとき投資家が、不動産そのものに直接ふれずに参加できるようにすること。そして、安心して参加できるよう、業者や器に対する規律や情報開示を整えていくこと。

この三つは、いずれも投資家保護という同じ向きの問いから出てきているといえます。各論第三章が、そのうえで何を担っているのか。それは、第三章を読むときに、もう一度ゆっくり整理していきます。

🐿️レコル:経緯を並べると、「投資家を守るために、しくみを少しずつ整えてきた」という軸が見えてくるんだ。各論第三章も、その流れの中に置いてみると、なぜ比較容易性や説明責任があそこまで重視されているのかが、すっと腹に落ちるよ。

第二章 証券化のしくみと、リスクが投資家へ流れていく道すじ

1 実物の不動産と、金融商品のあいだに置かれた「器」

証券化のしくみを読むときに、いちばん大切なのは「器」という言葉だと思います。

器とは、特別目的会社(SPC)、特定目的会社(TMK)、投資法人、合同会社、信託など、不動産を保有することだけを目的に置かれる法的な主体のことをいいます。英語ではSPV(Special Purpose Vehicle)やSPE(Special Purpose Entity)と呼ばれています。

もとの所有者(オリジネーター)は、不動産そのもの、あるいは不動産の信託受益権を、この器に譲渡します。器は、その不動産が生み出す賃料や売却益を原資として、投資家から資金を集める。投資家は、不動産そのものを買うのではなく、器が発行する有価証券や出資持分を買う。── これが、証券化の基本的な姿です。

器が置かれることで、もとの所有者と、不動産と、投資家のあいだに、ひとつの法的な境界線が引かれます。この境界線が、証券化の様々な性質を支えています。

2 倒産隔離 ── 器を「巻き込まれないもの」にする

器に置かれる第一の性質が「倒産隔離」です。

もし、オリジネーターが倒産した場合に、譲渡した不動産まで一緒に巻き込まれてしまうと、その不動産を裏付けに有価証券を買った投資家は、突然予期しない事態に立たされます。これを避けるためには、譲渡が「真正売買」として有効であること、また、譲渡された不動産が、オリジネーターの倒産手続から確実に切り離されていることが必要になります。

また、器そのものが倒産しないようにする工夫も置かれます。器の業務範囲を「資産の保有と運用」だけに限定し、それ以外の取引を行わないようにする。役員には外部の専門家を派遣する。関係者間で、器に対して倒産申立てを行わないという協定をあらかじめ結んでおく。── こうした手当てを総じて「倒産隔離」と呼んでいます。

倒産隔離は、投資家がその器の有価証券を買えるようにするための、もっとも基礎的な前提といえます。

3 デットとエクイティ、優先劣後のしくみ

器に集まる資金は、おおまかに「デット」と「エクイティ」に分けられます。

デットは、金融機関からの借入や、社債の発行などにより調達される、いわば負債部分です。エクイティは、出資や優先出資証券などにより調達される、いわば資本部分です。

そして、器の収益や残余財産の分配にあたっては、デットが先に、エクイティが後に並ぶ「優先劣後構造」が設けられることが一般的です。

利息や元本の支払いは、デットが先に受け取り、その後にエクイティが分配を受けます。逆に、収益が想定を上回った場合には、エクイティが残った分のすべてを受け取れる、という構造になります。デットは安定した利益を狙う商品に、エクイティはより大きな収益を狙う商品に対応するわけです。

この優先劣後を組み合わせることで、ひとつの不動産から、リスクとリターンの性質が異なる複数の金融商品を作り出すことができます。証券化が、多様な投資家ニーズに応える金融手法と呼ばれるゆえんでもあります。

優先劣後構造は、デットとエクイティの区分だけでなく、エクイティの中でも設定されることがあります。

4 ノンリコース・ローン ── 担保不動産にだけ責任が及ぶ融資

証券化で使われる融資は、多くの場合「ノンリコース・ローン(責任財産限定特約付融資)」と呼ばれる形をとります。

ノンリコース・ローンとは、貸し手が回収できる責任財産が、対象となる不動産(やその信託受益権など)に限定される融資です。仮に不動産の収益や売却代金で元利金の回収が不足したとしても、貸し手の回収は、契約で定められた責任財産の範囲にとどまり、その先のオリジネーターの一般財産にまでは原則として遡及しません。

これは、オリジネーターから見ると、特定の不動産プロジェクトのリスクを、自社の本体の信用から切り離せるしくみといえます。一方、レンダーから見ると、その不動産の収益力や担保価値そのものを評価して融資判断を行う必要があり、不動産鑑定評価書やエンジニアリング・レポートが、判断の基礎資料として重く扱われることになります。

🐿️レコル:ノンリコース・ローンは、貸し手にとって「この不動産だけを見て貸します」というルールなんだ。だからこそ、その不動産の収益力や状態を丁寧に確かめる必要があるわけだね。鑑定評価が大事になってくる場面でもあるよ。

5 二重課税の回避 ── パススルー・ペイスルー

ふつうの株式会社では、会社の利益に法人税が課され、配当を受け取った株主にも所得税が課されます。同じ利益に二度課税されることになるため「二重課税」と呼ばれます。

証券化のしくみでは、投資家に届く収益を大きく削らないため、この二重課税を避ける工夫が置かれます。大きく二つの形があります。

一つは、組合や信託のように、器そのものが課税主体とならないしくみを使う方法(パス・スルー)。もう一つは、特定目的会社(TMK)や投資法人のように、一定の配当・分配のルールを満たした場合に、配当金を税務上の損金として処理できるしくみを使う方法(ペイ・スルー)です。

どちらも、不動産から生まれる収益が、できるだけそのままの形で投資家に届くようにするための整理だといえます。

6 関与するプレイヤーたち

証券化のスキームを動かしていくには、多くの専門家の関与が必要になります。

中核となるのが、オリジネーター(原資産所有者)、アレンジャー(スキーム全体を設計する者)、アセットマネジャー(資産全体の運用方針を決める者)、プロパティマネジャー(個別の不動産の管理運営にあたる者)、レンダー(融資する金融機関)、エクイティ投資家、信託銀行、格付会社、事務管理会社などです。

そして、これらの関係者の周りに、不動産鑑定士、弁護士、公認会計士、税理士、エンジニアリング・レポート作成者などの専門家が並びます。

不動産鑑定士は、対象不動産の鑑定評価を担当します。器が不動産を取得するときの参考、投資家が投資判断をするときの参照、レンダーが融資判断をするときの裏付け、開示書類における説明の根拠など、鑑定評価書はさまざまな場面で利用されます。

🐿️レコル:証券化って、たくさんの人が関わっているんだよね。役割ごとに専門が分かれているから、不動産鑑定士もその一人として、特定の場所で責任を持っているんだ。各論第三章は、その「特定の場所」での仕事のしかたを書いているとも読めるよ。

7 そして、リスクは投資家へと流れていく

ここまでのしくみを並べると、ひとつのことが見えてきます。

オリジネーターは、不動産を器に譲渡することで、その不動産の収益も、リスクも、自分の手元から切り出すことができます。倒産隔離やノンリコース・ローンは、その切り出しを法的に確かなものにするための仕掛けです。

では、切り出されたリスクは、どこへ流れていくのか。── 答えは、優先劣後構造に応じて、デットとエクイティの投資家へと流れていきます。

これが、不動産証券化が「投資家へのリスク転嫁」の構造をもつ、と整理される理由です。リスクは、消えるのではなく、移動する。オリジネーターの手元から、器を経由して、不動産から得られる収益をめがけて集まってきた投資家へと、リスクとリターンの両方が分配されていきます。

だからこそ、その先で投資家が判断するときの根拠が、できるだけ正確で、説明可能で、比較しやすいものでなければならない。── そう考えていくと、各論第三章が、なぜあそこまで説明責任や比較容易性を重視しているのかが、少しずつ見えてきます。

🐿️レコル:『読めないリスクを、誰が引き受けるのか』では、リスクは消えずに誰かへ移っていくことを読んだよね。証券化も少し似ていて、不動産に関わるリスクや収益は、器を通じて投資家へと分配されていくんだ。だから、その判断の材料になる鑑定評価にも、説明責任や比較容易性が強く求められるようになったんだよ。

第三章 各論第三章「証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価」を読む

1 各論第三章が新設された背景(平成十九年)

不動産鑑定評価基準各論第三章「証券化対象不動産の価格に関する鑑定評価」は、平成十九年四月二日付けの国土交通事務次官通知により、不動産鑑定評価基準に新たに加えられました。施行日は、同年七月一日です。

国土交通省の説明によれば、その背景にはおおむね二つの問いがあったとされています。

一つは、我が国の不動産証券化市場が急速に進展する中で、投資家や市場関係者に対し、利益相反の回避や取引の公正性を示すうえで、不動産鑑定評価が果たす役割が大きくなってきたこと。もう一つは、経済社会状況の変化に伴い、鑑定評価書における説明責任や比較容易性、エンジニアリング・レポート作成者との連携などが、強く求められるようになってきたことです。

こうした背景のもとで、平成十八年八月に国土審議会土地政策分科会不動産鑑定評価部会のもとに「投資不動産鑑定評価基準等検討小委員会」が設けられ、複数回の審議とパブリックコメントを経て、平成十九年の改正がまとまりました。

つまり、各論第三章は、突然作られたものというよりも、証券化市場の広がりと、それに対する投資家保護の問いに応えるかたちで、不動産鑑定評価基準のなかに静かに加えられた章だといえます。

2 「証券化対象不動産」とは何を指しているのか

各論第三章では、「証券化対象不動産」を、次のいずれかに該当する不動産取引の目的である不動産、または、不動産取引の目的となる見込みのある不動産(信託受益権に係るものを含む)と定義しています。

一つは、資産の流動化に関する法律に規定する資産の流動化、及び、投資信託及び投資法人に関する法律に規定する投資信託に係る不動産取引、並びに、同法に規定する投資法人が行う不動産取引。

二つ目は、不動産特定共同事業法に規定する不動産特定共同事業契約に係る不動産取引。

三つ目は、金融商品取引法第二条第一項第五号(社債券)、第九号(株券等のうち、専ら不動産取引を行う株式会社に係るもの)、第十四号(受益証券発行信託の受益証券)、第十六号(抵当証券)に規定する有価証券、及び、同条第二項第一号(信託受益権)、第三号(合名・合資・合同会社の社員権)、第五号(いわゆる集団投資スキーム持分)の規定により有価証券とみなされる権利の債務の履行等を主たる目的として収益又は利益を生ずる不動産取引。

つまり、ここで挙げられている法律は、第一章で見てきた証券化を支える法律の一覧と、ほぼ重なります。各論第三章は、「証券化スキームの中に置かれた不動産」を、その範囲として受けとめている、と読み取ることができます。

そして重要なのは、この章の適用範囲が「依頼者を問わず」とされていることです。誰から依頼を受けたかではなく、対象となる不動産が証券化スキームに関わるものであれば、各論第三章に従って鑑定評価を行うことが求められます。

🐿️レコル:各論第三章は「依頼者ではなく、対象不動産の置かれた場所」で適用範囲を切っているんだ。だから、鑑定評価を依頼した人がオリジネーターでも、アレンジャーでも、レンダーでも、対象不動産が証券化スキームの中にあれば、第三章に従うことになるよ。

3 不動産鑑定士の責務 ── 依頼者を超えて、広範な投資家へ

各論第三章第一節Ⅱでは、不動産鑑定士の責務が次のように整理されています。

第一に、依頼者だけでなく、広範な投資家等に重大な影響を及ぼすことを考慮し、不動産鑑定評価制度に対する社会的信頼性の確保について重要な責任を有していることを認識して、鑑定評価を行うこと。

第二に、証券化が円滑に行われるよう配慮しつつ、鑑定評価に係る資料や手順を依頼者に説明し、理解を深め、協力を得ること。鑑定評価報告書については、依頼者やその他の利害関係者が、その内容を容易に把握・比較できるよう、記載方法を工夫し、活用した資料等を明示するなど、説明責任が十分に果たされるものとしなければならないとされています。

第三に、複数の不動産鑑定士が共同して鑑定評価を行う場合には、それぞれの役割を明確にし、業務全体の情報を共有しながら、一体となって遂行することとされています。

ここに、各論第三章の核となる姿勢が読み取れるように思います。

通常の鑑定評価でも、報告書の利用者は意識されますが、各論第三章では、それが「広範な投資家」という、依頼者を超えた人々として、はっきりと書き込まれています。証券化された不動産の鑑定評価書は、投資判断や開示書類の根拠資料として、誰の目にふれるかが見通せない場所へ流れていく。──そのことを正面から受けとめた章であるといえます。

4 処理計画の策定と、利害関係の確認

各論第三章第三節では、処理計画の策定にあたって、依頼者に確認すべき事項が次のように整理されています。

依頼目的と依頼が必要となった背景、対象不動産がどの法律に基づくスキームに係るものか、エンジニアリング・レポートやDCF法等を適用するために必要な資料の主な項目と入手時期、エンジニアリング・レポート作成者からの説明の有無、対象不動産の内覧の実施を含めた実地調査の範囲、その他処理計画策定のために必要な事項。

これらの確認事項については、確認を行った年月日や不動産鑑定士の氏名、相手方の氏名・職業、確認の内容と処理計画への反映状況などを記録に残し、鑑定評価報告書の附属資料として添付することが求められています。

また、第三節Ⅲでは、依頼目的と依頼者の証券化関係者との関係について、次のことを鑑定評価報告書に記載することとされています。

依頼者が、オリジネーター、アレンジャー、アセットマネジャー、レンダー、エクイティ投資家、特別目的会社・投資法人・ファンド等といった証券化関係者のいずれにあたるか。依頼者と証券化関係者との資本関係または取引関係の有無、その内容。その他、特別な利害関係がある場合の内容。

関係者が多く、利害関係が複雑になりがちな証券化の世界では、誰の依頼に基づき、どのような関係のもとで鑑定評価が行われているのかを、報告書のなかで透明にしていくことが、特に大切にされています。

5 エンジニアリング・レポートと、不動産鑑定士の主体的な判断

各論第三章第四節では、エンジニアリング・レポートの取扱いと、不動産鑑定士が行う調査について整理されています。

エンジニアリング・レポートとは、建築物、設備、環境に関する専門的知識を有する者が、証券化対象不動産の状況を調査して作成する報告書をいいます。鑑定評価の依頼者が別途専門家に作成を依頼し、不動産鑑定士に提供されることが多いとされています。

各論第三章では、鑑定評価にあたって、不動産鑑定士は依頼者に対しエンジニアリング・レポートの提出を求め、その内容を分析・判断したうえで活用することとされています。同時に強調されているのは、「不動産鑑定士が主体的に責任を持って判断する」ということです。

既存のエンジニアリング・レポートをそのまま活用できる場合がある一方で、形式的に項目を満たしていても、鑑定評価にとっては不十分で、不動産鑑定士による追加の調査が必要となる場合もある、とされています。

活用にあたっては、エンジニアリング・レポートの基本的属性(作成者、調査日、作成日)、入手経緯と対応方針(入手先、入手日、作成者からの説明の有無、対応方針)、専門性の高い個別的要因に関する調査について、エンジニアリング・レポートを活用したか、不動産鑑定士の調査で対応したかの別、それぞれの内容や根拠を鑑定評価報告書に記載することとされています。

ここで挙げられている専門性の高い個別的要因とは、公法上及び私法上の規制・制約等、修繕計画、再調達価格、有害な物質に係る建物環境、土壌汚染、地震リスク、耐震性、地下埋設物など、いずれも建物や土地の物的・環境的なリスクに関わるものです。これらは、収益の見通しや価格に直接影響を与える要素であり、報告書を読む投資家にとっても、判断の根拠として欠かせない情報になります。

🐿️レコル:エンジニアリング・レポートは、鑑定評価にとって大切な資料だけれど、そのまま受け取ればよいものではないんだ。各論第三章は、不動産鑑定士に、その内容を読み解いたうえで、もう一度自分の判断を通すことを求めているんだよね。

6 実地調査と、内覧を含む確認

各論第三章第四節Ⅰでは、証券化対象不動産の個別的要因の調査について、次のように定められています。

「依頼された証券化対象不動産の鑑定評価のための実地調査について、依頼者(依頼者が指定した者を含む。)の立会いの下、対象不動産の内覧の実施を含めた実地調査を行うとともに、対象不動産の管理者からの聴聞等により権利関係、公法上の規制、アスベスト等の有害物質、耐震性及び増改築等の履歴等に関し鑑定評価に必要な事項を確認しなければならない。」

証券化対象不動産では、通常の実地調査に加えて、依頼者または依頼者が指定した者の立会いのもとでの内覧、対象不動産の管理者からの聴聞、調査範囲や未実施理由の記録までが、特に明確に求められている点が大きな特徴です。

内覧を伴うことで、共用部や専有部の内部の使われ方、管理状況、設備の状態、テナントの実際の利用状況などが、鑑定評価の手がかりとして直接確認できるようになります。

また、実地調査については、実施した年月日、調査を行った不動産鑑定士の氏名、立会人や管理者の氏名と職業、調査した範囲(内覧の有無を含む)、確認した内容、調査の一部を実施できなかった場合にはその理由を鑑定評価報告書に記載することとされています。

証券化対象不動産の鑑定評価は、多くの利害関係者が関わるものであり、調査の手続きそのものが、誰の目にもたどれる形で残されていることが重要だからだといえます。

7 DCF法の適用と、収益費用項目の統一

各論第三章第五節では、収益価格を求めるにあたって、DCF法(割引キャッシュフロー法)を適用することが定められています。あわせて、直接還元法を適用することによる検証を行うことが適切であるとされています。

DCF法とは、対象不動産の保有期間中に得られる毎期の純収益と、期間満了後の売却によって得られると予測される復帰価格を、それぞれ現在価値に割り戻して合計する方法をいいます。長期にわたる収益の見通しと、最終的な売却の見通しを、ひとつの式の中で扱う方法です。

各論第三章は、DCF法について、特に二つのことを強調しています。

一つは、DCF法の適用過程の明確化です。割引率、最終還元利回り、収益と費用の将来予測など、査定した項目について、その妥当性の判断根拠や、収益価格を求める過程、論理的な整合性を、鑑定評価報告書に明確に記載することが求められています。複数の不動産鑑定士が共同して複数の物件を評価する場合には、対象不動産間の論理的な整合性を図ることとされています。

もう一つは、収益費用項目の統一です。

DCF法の適用にあたっては、貸室賃料収入、共益費収入、水道光熱費収入、駐車場収入、その他収入、空室等損失、貸倒れ損失、維持管理費、水道光熱費、修繕費、プロパティマネジメントフィー、テナント募集費用等、公租公課、損害保険料、その他費用、運営純収益、一時金の運用益、資本的支出、純収益という項目を、各論第三章の表に定められた定義に従って整理することとされています。

これらの項目は、もともと不動産鑑定士ごとに名称や定義が少しずつ異なっていた部分でもありました。各論第三章は、その項目と定義を統一することで、複数の鑑定評価書を比較するときに、同じものさしで見られるようにしようとしているといえます。

🐿️レコル:DCF法の項目の統一は、地味だけれど大きな改正なんだ。投資家からすると、複数の物件の鑑定評価書を見比べたいときに、項目の定義がそろっていないと、そもそも比べられない。各論第三章は、その「比較容易性」を、目に見える形で支えているんだよ。

運用上の留意事項では、純収益は償却前のものとして求めることや、信託報酬、SPC・投資法人・ファンドの事務費用、アセットマネジメントフィー(個別の不動産に関する費用は除く)などの証券化関連費用は、収益費用項目に含まないことなども細かに整理されています。

第四章 投資家へのリスク転嫁を、鑑定評価がどう支えているのか

1 「公正性」を支える、ひとつの軸として

ここまで読んでくると、不動産の証券化と、各論第三章は、ばらばらの話ではなく、ひとつながりの景色として見えてきます。

不動産は、もともと購入に多額の資金を要し、売却にも時間がかかる資産でした。

それを多くの人が参加できる金融商品にしていく過程で、リスクは器を通じて投資家へと流れていく構造ができあがりました。

その構造のなかで、不動産鑑定評価は、価格を判断するための専門的な仕事として、独立した立場から関わります。鑑定評価書は、投資家がリスクを引き受けるかどうかを判断するための「もう一つの目」として、開示書類や報告のなかに置かれることになります。

だからこそ、各論第三章は、鑑定評価を「依頼者だけのものではなく、広範な投資家を見据えた仕事」として位置づけ直したのだといえます。

2 説明責任と、比較容易性

各論第三章を貫いている言葉のひとつが、「説明責任」と「比較容易性」です。

そして、その背景には、証券化市場における鑑定評価の公正性を支えようとする考え方があります。

説明責任とは、鑑定評価書を読んだ人が、なぜその結論に至ったのかをたどれること。

比較容易性とは、複数の鑑定評価書を並べたときに、同じものさしで比較できること。

DCF法の収益費用項目の統一、エンジニアリング・レポートの活用に関する記載事項、依頼者と証券化関係者との関係の開示、実地調査の範囲と内容の記録──これらの規律は、いずれも、この二つの要請を具体化したものとして読むことができます。

証券化された不動産の鑑定評価書は、ひとりの依頼者のためだけではなく、投資家のためにも書かれている。── その前提に立つと、これらの細かな手続きの意味が、不思議とつながって見えてくるように思います。

3 フォローアップが続いている、ということ

各論第三章の改正にあたっては、改正後に「証券化対象不動産の鑑定評価に係るモニタリング」を実施し、年に一回程度のフォローアップを行うことが、改正の附則や審議資料の中で示されています。

また、エンジニアリング・レポートに関しては、内容の改善・充実が今後も進んでいくことを踏まえ、不動産鑑定士はその知識と理解を深めるための研鑽に努めなければならない、とされています。

つまり、各論第三章は、一度作られて終わるものではなく、市場や実務の変化に合わせて読み直され続けることが、はじめから織り込まれている章だといえます。

不動産証券化市場は、平成十九年以降も、リーマン・ショックや東日本大震災、コロナ禍などの大きな揺れを経験してきました。投資対象も、オフィスや住宅から、物流施設、ホテル、ヘルスケアへと広がり、近年はデータセンターについても制度面の整理が進んでいます。各論第三章は、そうした変化のなかでも、軸となる考え方を支え続けてきた章として読むことができます。

4 価格へ向かう道すじの中での位置づけ

最後に、不動産鑑定評価全体の中で、各論第三章がどこに位置しているのかを、もう一度整理しておきたいと思います。

総論では、価格形成要因、最有効使用、地域分析、原価法・取引事例比較法・収益還元法という三方式の枠組みが整理されています。各論第一章では、価格に関する一般的な鑑定評価、第二章では、賃料に関する鑑定評価が扱われています。

各論第三章は、その上に置かれた「特別な場面」のための章だといえます。対象となる不動産が、証券化スキームの中で扱われるとき、総論と各論第一章で整理された理論を、どのような姿勢で、どのような手続きで、どのような記載方法で適用していくのかを、改めて書き直した章。── そのように位置づけられます。

つまり、各論第三章だけを読んでも、不動産鑑定評価の全体像にはたどり着けません。総論と各論第一章で組み立てた理論の流れの上に、第三章を重ねるからこそ、証券化対象不動産の鑑定評価の姿が見えてくるのだと思います。

🐿️レコル:各論第三章は、「価格へ向かう道すじ」の特別な分岐ではなく、その道すじの上に重ねられた「証券化という場面で、不動産鑑定士に求められることを書いた章」として読むと、流れがつかみやすいよ。

あとがき

不動産の証券化は、最初に向き合うとき、知らない言葉が次々と出てくる世界に見えると思います。SPC、TMK、SPV、ノンリコース、優先劣後、パススルー、ペイスルー、エンジニアリング・レポート、DCF法。

けれども、そのひとつひとつは、「不動産から生まれる収益に多くの人が参加するには、どのような工夫をするか」という、わりとシンプルな問いに支えられていました。

そして、その工夫の中で、リスクは静かに投資家へと流れていく。だからこそ、価格を判断する仕事である鑑定評価が、依頼者を超えた広範な投資家を見据える形に整え直された。── 各論第三章は、そういう景色の中に置かれていました。

この本では、その景色を、経緯としくみと基準の三層から読み直してみました。証券化という言葉に少しでも親しみを持っていただけたら、そして、各論第三章が求める説明責任や比較容易性が、誰のために置かれているのかを思い出していただけたら、編集の手元としてはうれしく思います。

制度や運用は、これからも更新されていきます。今夜たどったしくみも、いつか別の姿に書き換えられていくはずです。実務の場面では、必ず最新の原典本文をご確認のうえご利用ください。

読み終えてくださった皆さまへ、夜の森から、静かに感謝を込めて。

レコル出版 編集日:2026年6月1日

この本の原典

この本は、以下の原典をもとに整理しています。

制度や運用は更新されるため、実務で利用する際は最新の原典をご確認ください。

・ 不動産鑑定評価基準(国土交通省)

https://www.mlit.go.jp/common/001204083.pdf

・ 不動産鑑定評価基準運用上の留意事項(国土交通省)

https://www.mlit.go.jp/common/001204077.pdf

・ 不動産鑑定評価基準等の改正について ~証券化対象不動産の鑑定評価に関する基準の明確化等~(国土審議会土地政策分科会不動産鑑定評価部会資料)

https://www.mlit.go.jp/singikai/kokudosin/tochi/11/04.pdf

・ 証券化対象不動産の鑑定評価基準について(国土交通省パブリックコメント資料)

https://www.mlit.go.jp/pubcom/06/pubcomt153/01.pdf

・ 不動産証券化の解説(国土交通省)

https://www.mlit.go.jp/common/001059020.pdf

・ 土地・不動産・建設業:法令・不動産鑑定評価基準等(国土交通省)

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk4_000024.html

・ 土地・不動産・建設業:不動産鑑定評価基準等:過去に制定・改正したもの(国土交通省)

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/totikensangyo_tk4_000031.html

・ 資産の流動化に関する法律(e-Gov 法令検索)

https://laws.e-gov.go.jp/law/410AC0000000105

・ 投資信託及び投資法人に関する法律(e-Gov 法令検索)

https://laws.e-gov.go.jp/law/326AC0000000198

・ 不動産特定共同事業法(e-Gov 法令検索)

https://laws.e-gov.go.jp/law/406AC0000000077

・ 金融商品取引法(e-Gov 法令検索)

https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000025

・ J-REITヒストリー(一般社団法人 不動産証券化協会 ARES)

https://j-reit.jp/history

・ 不動産証券化用語集(一般社団法人 不動産証券化協会 ARES)

https://www.ares.or.jp/learn/glossary

・ 公益社団法人 日本不動産鑑定士協会連合会 公表資料

https://www.fudousan-kanteishi.or.jp/houreiguideline1

※リンク先は、執筆時点で確認できたものを掲載しています。

🐿️ レコル出版

外の世界にある制度や資料を、夜の森の中で静かに読み直し、本のかたちにしています。

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